旦那を守るのも楽じゃありません
これでも妊婦さんなのよ?
嫁に行った立場上、異を唱える訳にもいかず私は粛々とジークレイの実家ホイッスガンデ侯爵家に滞在することになった。
「若奥様、お待ちしておりました」
あら?以前お伺いした時にお世話してくれたメイドの子ね?うん、うん。元気そうね~
「こちらにお住まいの間は私がお世話させて頂きます」
と頭を下げた彼女と共に横に立った年嵩のメイドも、静かに頭を下げた。
「メイド長のイランゼと申します。宜しくお願い致します」
あらこれは…ピリピリした魔質を漂わせていらっしゃいますね。40才くらいの方かな?
「フィーの荷物、俺の部屋に運んでおいてくれ」
と言うジークの言葉にイランゼさんの魔質がグニャリと歪んだのが見えた。しかし表情は変わらない、流石だ。
しかしピリピリしてるな〜これは魔質が見える、または感じる系統の術士には疲れを感じさせる魔力よね。
私はこんな魔質を発する人を何人も知っている。そうこれは嫉妬だ。しかも恋慕系の嫉妬…
参ったな…これでジークは常日頃から年上のおねーさまから狙われやすい男…という確証が得られてしまった。ジークにとっては不名誉だとは思うけど。
「ミルフィーちゃん!よく来てくれたわ~疲れていない?」
お義母様が満面の笑顔で迎えてくれた。
「お義母様、本日よりお世話になります」
私は腰を落として淑女の礼をした。お義母様とジークと談笑しながら広間に入った。紅茶は飲み辛いと話すとホットココアを入れてきてくれたのだが…はぁ…あらら~ココアに何か入ってるね。
う~んこれはイランゼさんが入れてくれたのね、無意識かな?呪い系の呪術がかかっている。笑えないわよ~これはいけないわ。私はココアに浄化魔法をかけた。
一口飲んで、一応口の中でも浄化魔法をかけていく。
これは困ったな~。これから毎日こんなピリピリした魔力と付き合って行かなきゃならないの?
小さく息を吐きながらチラッとジークを見ると目が合って、目配せされた。
あ……これはジークも何か感づいているみたいね。後で夫婦間協議を開催しないとね。
という訳で
ジークの部屋に私の荷物を運び入れてもらい、夕食までの間の短い時間に人払いをしジークと腹を割って話すことにした。
私は廊下の方に意識を向けた後、消音魔法を使った。ジークが少し怖い顔をした。
「やっぱり聞いてるだろ?」
「みたいね…ねえ、ジーク?私は単刀直入に聞きますね?いつからですか?彼女の横恋慕は。」
「気が付いたのは、7年くらい前かな」
「きっかけはあったの?」
ジークはまだ怖い顔のままだ。
「俺が付き合ってる女の子はフィーに紹介してたから全員知っているよな?」
「はい、私には全然要らない情報でしたが」
ジークは酸っぱいものを食べたみたいな顔をした。
「その子達も、まあ家に来たりもしたことあるんだけど、皆1回来ただけで2回目は絶対嫌がる。こりゃ何かあるな〜と」
「うん…なるほどね」
もしかすると、毎回あのお茶のような呪術をかけていたものを飲んでいたならば、少なからず精神や肉体に影響があったかもしれない。
「俺がさ…1人暮らしをしたいと思ったのも実は、その妙な違和感が原因の一つなんだ。普段は感じないのに俺に彼女が出来ると屋敷全体が妙な感じがする。流石に俺も気が付いた。誰かが俺に関係することに魔力を悪用しているってね」
ジークは顔を引きつらせている。
「前さ、1人暮らしの洗濯の仕方をメイド達に聞いた時に揉めた…ってフィーにはそう言ったけど、実はそうじゃないんだ。メイド達は顔を強張らせて押し黙って…イランゼが只1人、悠然と微笑みながら『ご心配なさらずとも私がジークレイ様の家の家事一切をさせて頂きます』って言ったんだ」
ジークが指名した訳でもないのに押し付けすごいな〜
「それを聞いて皆の押し黙った反応を見て俺は確信したんだ。イランゼがこの屋敷で何かをしているんだ…って」
ジークは深い溜め息をついた。
「俺、絶対フィーを紹介出来ないと思った」
ん?と思ったけど…話の腰を折るのもあれなので、そのまま会話を続けた。
「もしかして1人暮らしの寮の部屋にイランゼさん来ました?」
ジークは頷いた。
これは怖い、かなり怖い。
「つくづく、押し掛けられやすい体質なんですかねぇ」
「体質って何だ!?好きで押し掛けられてる訳じゃない!」
私はジークの手を優しく撫でた。ジークがその手を握り返してくれる。
こりゃココアの呪術は無意識どころか、確信犯の可能性が出てきたね。
「今までも使用していたとは断言出来ませんが、今日私が飲んだココアには呪術がかかっていました」
「なっ!?」
カッ…と魔力を上げたジークの手を何度も撫でた。
「大丈夫です。私の飲み物だけでした。お義母様達の飲み物は安全です」
「そうじゃないっ!フィーが…フィーが…」
「ジーク、私を誰だと思っているのですか?私、パッケトリア王国最強の盾で最強の魔術師です。今回のことに関しては絶対退きませんから…私、自分の身だけでなくお腹の子供も危険にさらされましたから」
ハッ…とジークは息を飲むと私のお腹を見詰めた。そして私を抱き寄せた。ジークの体が震えている。私はジークの背中を摩った。
「私だって怒る時には怒ります。それに私だってジークの妻です。ジークの為に最強の盾を使うことにします」
ジークは半泣きになっていた。ジークは何度も私に口づけてくる。
今までの歴代?の彼女さん達も呪いで精神を蝕まれたり、体の調子を崩されたりしていたに違いない。そんな見たことはない元彼女さん達の為にも、私はやってやるよ!と思った。
「それはそうと、前から不思議だったのですが何故彼女が出来たり別れたりしたら、いちいち私に報告してきたのですか?」
ジークは益々酸っぱ苦い食べ物を食べているみたいな顔をしている。
「いやあその…うん…と」
「ジーク?」
ジークは手で顔を覆った。乙女かっ!
「フィーが…ミルフィーがチャラチャラしてると、しっかりしろとか、怒ったり構ってくれるから…その、構われて嬉しくって…」
唖然とする。構われて嬉しいだって?
「その為に女の子をとっかえひっかえしていたのですか?」
ジークは頷いた。
「とんだ最低野郎ですよ?」
「フィー!?」
本当に女性の敵だわ。私はジークを睨んでやった。
「私に構って欲しいなら、真面目に仕事をして下さい。約束を守る。締切を破らない」
「昔は真面目にしてたけど、フィー全然俺に関心を示さなかったじゃないか!」
そうだっけ?だってジークは私から見て、あくまでも職場の先輩で上司で、ミケランティス兄様の親友って立ち位置だったものね。
「派手に遊んだり、不良になれば構ってくれることに気がついて…」
「不良…呆れました」
ジークはしょぼんとしたまま頷いた。
考え方が思春期の男の子だ。好きな子に構ってもらいたくて嫌がらせする、アレだ。
あれ?昔は真面目にしてたけど、私が関心を示さなかった?
「それってジークが前から私のことが好きだということですか?」
ジークはそれはそれはワナワナと震えるとまた手で顔を覆った。
「ずっと愛を叫んでる!」
「結婚してからそう言う気持ちになったものだと思っていました」
なんとまあ根強い…失礼、根深い…失礼、ねちっこい…これが妥当か?な、想われ方だろう。
「もっと早くおっしゃって下されば…」
「言ったって、どうせ振られてたに決まってる…」
完全にジークは乙女泣きみたいな状態だ…いやいや?何だか私が脈無しで冷たい態度なツンデレ男の立ち位置じゃないかな、これ?
乙女ジークは兎も角としても
私は思案した。例えば今逃げればイランゼさんを刺激するだけだろう。暫く様子を見た方がいいのか?しかし今回の呪術も笑いごとではすまない。
「どうしようかな〜」
「どんな償いもしますっ!」
「ん?ああジークの事じゃないの。イランゼさんの対応ですよ。メイド長ってことはお義母様の信頼も厚いのよね?」
ジークはほっとしたように私を抱き寄せた。
「家のメイドで一番古参だし、母上の嫁入りに実家から付いてきたくらいだ」
それは古株も古株…使用人の長と言っても過言ではないわね。
するとコンコン…と扉が叩かれた。
「ジークレイ様、夕食のご準備が出来ました」
イランゼさんだ…
私は消音魔法を解いた。ジークに目配せをする。
「分かった、すぐ行く」
ジークは私に手を添えて歩きながら小さく呟いた。
「絶対フィーには指一本触れさせないから、安心しろ」
こんな真面目な時に茶化すのも変だけど、仕事にもこれぐらい魔力メラメラにして頑張って欲しいな〜
さて
一応夕食は無事だった。料理は料理長が作るからイランゼさんでも呪術をかける隙がないのかもしれない。
ジークから事前情報を聞いているのもあり、さり気なくイランゼさんの給仕中の動きを注視していた。
成る程…ものの見事にジークの分はイランゼさんが給仕している。普通なら部下に任せるか、メイド長ならお義母様の給仕担当になるよね?
これはちょっと動いてみるか…
「ジーク、私少し気分が優れないので休んできてもいいかしら?」
ジークの腕を触りながら、指で合図をしながら、気分の悪いフリをした。
「フィー!?大丈夫?ラミヤ、寝所の支度頼むよ」
ラミアとは、私達のお世話係になった若いメイドの女の子だ。
ラミアは、はいっ!と返事をしてから何故かイランゼさんを見た。
するとイランゼさんは悠然と微笑んだ。
「ジークレイ様、ミルフィーナ様はラミアがお世話しますので、大丈夫です」
ほ〜お?そうきたか!
「あらっ!それは大変!ジーク早く連れて行ってあげなさい。ミルフィーちゃん後で薬湯を持って行くわね」
たまたまだろうが、お義母様が援護射撃をしてくれた。イランゼさんはイラッとした魔力を発した。ジークは大きく頷くと私を支えながら立ち上がった。
「ラミアッ…」
イランゼさんが鋭い声をあげた。
ラミアが慌てて私とジークの側にやって来た。
「若奥様は…私がお部屋に、お…お連れします。ので、ジークレイ様はそのお席にお戻りに…」
ラミア噛み噛みだわ…
ああ、イランゼさんから威圧的な魔力が放たれている。こんなあからさまに魔力をぶつけて来るなんて…使用人に有るまじき…不敬な魔力圧よ。
私がラミアに声をかけようとした時、お義父様が
「ジークレイ、早く連れて行ってあげなさい」
とおっしゃった。
ギギギ…という音をたてて魔力圧が部屋に放たれる。ジークは私を促したので、私とジークは廊下に出た。
「へ…部屋を整えてまいります」
ラミアはそう言って先に部屋へと移動した。
「ジークの見立てではラミアはどっちでしょうか?」
ジークは少し目を細めて、小走りで移動するラミアの後ろ姿を見ている。
「命令されてやむを得ず…だな」
私達は廊下を歩き出した。イランゼさんの魔力が私達の背後から纏わりついて来る。
「フィー…俺の部屋に魔物理防御障壁、張ってくれるか?」
まあ別にいいけど…私が妊婦さんだって忘れてないかな?旦那よ。
「若奥様、お待ちしておりました」
あら?以前お伺いした時にお世話してくれたメイドの子ね?うん、うん。元気そうね~
「こちらにお住まいの間は私がお世話させて頂きます」
と頭を下げた彼女と共に横に立った年嵩のメイドも、静かに頭を下げた。
「メイド長のイランゼと申します。宜しくお願い致します」
あらこれは…ピリピリした魔質を漂わせていらっしゃいますね。40才くらいの方かな?
「フィーの荷物、俺の部屋に運んでおいてくれ」
と言うジークの言葉にイランゼさんの魔質がグニャリと歪んだのが見えた。しかし表情は変わらない、流石だ。
しかしピリピリしてるな〜これは魔質が見える、または感じる系統の術士には疲れを感じさせる魔力よね。
私はこんな魔質を発する人を何人も知っている。そうこれは嫉妬だ。しかも恋慕系の嫉妬…
参ったな…これでジークは常日頃から年上のおねーさまから狙われやすい男…という確証が得られてしまった。ジークにとっては不名誉だとは思うけど。
「ミルフィーちゃん!よく来てくれたわ~疲れていない?」
お義母様が満面の笑顔で迎えてくれた。
「お義母様、本日よりお世話になります」
私は腰を落として淑女の礼をした。お義母様とジークと談笑しながら広間に入った。紅茶は飲み辛いと話すとホットココアを入れてきてくれたのだが…はぁ…あらら~ココアに何か入ってるね。
う~んこれはイランゼさんが入れてくれたのね、無意識かな?呪い系の呪術がかかっている。笑えないわよ~これはいけないわ。私はココアに浄化魔法をかけた。
一口飲んで、一応口の中でも浄化魔法をかけていく。
これは困ったな~。これから毎日こんなピリピリした魔力と付き合って行かなきゃならないの?
小さく息を吐きながらチラッとジークを見ると目が合って、目配せされた。
あ……これはジークも何か感づいているみたいね。後で夫婦間協議を開催しないとね。
という訳で
ジークの部屋に私の荷物を運び入れてもらい、夕食までの間の短い時間に人払いをしジークと腹を割って話すことにした。
私は廊下の方に意識を向けた後、消音魔法を使った。ジークが少し怖い顔をした。
「やっぱり聞いてるだろ?」
「みたいね…ねえ、ジーク?私は単刀直入に聞きますね?いつからですか?彼女の横恋慕は。」
「気が付いたのは、7年くらい前かな」
「きっかけはあったの?」
ジークはまだ怖い顔のままだ。
「俺が付き合ってる女の子はフィーに紹介してたから全員知っているよな?」
「はい、私には全然要らない情報でしたが」
ジークは酸っぱいものを食べたみたいな顔をした。
「その子達も、まあ家に来たりもしたことあるんだけど、皆1回来ただけで2回目は絶対嫌がる。こりゃ何かあるな〜と」
「うん…なるほどね」
もしかすると、毎回あのお茶のような呪術をかけていたものを飲んでいたならば、少なからず精神や肉体に影響があったかもしれない。
「俺がさ…1人暮らしをしたいと思ったのも実は、その妙な違和感が原因の一つなんだ。普段は感じないのに俺に彼女が出来ると屋敷全体が妙な感じがする。流石に俺も気が付いた。誰かが俺に関係することに魔力を悪用しているってね」
ジークは顔を引きつらせている。
「前さ、1人暮らしの洗濯の仕方をメイド達に聞いた時に揉めた…ってフィーにはそう言ったけど、実はそうじゃないんだ。メイド達は顔を強張らせて押し黙って…イランゼが只1人、悠然と微笑みながら『ご心配なさらずとも私がジークレイ様の家の家事一切をさせて頂きます』って言ったんだ」
ジークが指名した訳でもないのに押し付けすごいな〜
「それを聞いて皆の押し黙った反応を見て俺は確信したんだ。イランゼがこの屋敷で何かをしているんだ…って」
ジークは深い溜め息をついた。
「俺、絶対フィーを紹介出来ないと思った」
ん?と思ったけど…話の腰を折るのもあれなので、そのまま会話を続けた。
「もしかして1人暮らしの寮の部屋にイランゼさん来ました?」
ジークは頷いた。
これは怖い、かなり怖い。
「つくづく、押し掛けられやすい体質なんですかねぇ」
「体質って何だ!?好きで押し掛けられてる訳じゃない!」
私はジークの手を優しく撫でた。ジークがその手を握り返してくれる。
こりゃココアの呪術は無意識どころか、確信犯の可能性が出てきたね。
「今までも使用していたとは断言出来ませんが、今日私が飲んだココアには呪術がかかっていました」
「なっ!?」
カッ…と魔力を上げたジークの手を何度も撫でた。
「大丈夫です。私の飲み物だけでした。お義母様達の飲み物は安全です」
「そうじゃないっ!フィーが…フィーが…」
「ジーク、私を誰だと思っているのですか?私、パッケトリア王国最強の盾で最強の魔術師です。今回のことに関しては絶対退きませんから…私、自分の身だけでなくお腹の子供も危険にさらされましたから」
ハッ…とジークは息を飲むと私のお腹を見詰めた。そして私を抱き寄せた。ジークの体が震えている。私はジークの背中を摩った。
「私だって怒る時には怒ります。それに私だってジークの妻です。ジークの為に最強の盾を使うことにします」
ジークは半泣きになっていた。ジークは何度も私に口づけてくる。
今までの歴代?の彼女さん達も呪いで精神を蝕まれたり、体の調子を崩されたりしていたに違いない。そんな見たことはない元彼女さん達の為にも、私はやってやるよ!と思った。
「それはそうと、前から不思議だったのですが何故彼女が出来たり別れたりしたら、いちいち私に報告してきたのですか?」
ジークは益々酸っぱ苦い食べ物を食べているみたいな顔をしている。
「いやあその…うん…と」
「ジーク?」
ジークは手で顔を覆った。乙女かっ!
「フィーが…ミルフィーがチャラチャラしてると、しっかりしろとか、怒ったり構ってくれるから…その、構われて嬉しくって…」
唖然とする。構われて嬉しいだって?
「その為に女の子をとっかえひっかえしていたのですか?」
ジークは頷いた。
「とんだ最低野郎ですよ?」
「フィー!?」
本当に女性の敵だわ。私はジークを睨んでやった。
「私に構って欲しいなら、真面目に仕事をして下さい。約束を守る。締切を破らない」
「昔は真面目にしてたけど、フィー全然俺に関心を示さなかったじゃないか!」
そうだっけ?だってジークは私から見て、あくまでも職場の先輩で上司で、ミケランティス兄様の親友って立ち位置だったものね。
「派手に遊んだり、不良になれば構ってくれることに気がついて…」
「不良…呆れました」
ジークはしょぼんとしたまま頷いた。
考え方が思春期の男の子だ。好きな子に構ってもらいたくて嫌がらせする、アレだ。
あれ?昔は真面目にしてたけど、私が関心を示さなかった?
「それってジークが前から私のことが好きだということですか?」
ジークはそれはそれはワナワナと震えるとまた手で顔を覆った。
「ずっと愛を叫んでる!」
「結婚してからそう言う気持ちになったものだと思っていました」
なんとまあ根強い…失礼、根深い…失礼、ねちっこい…これが妥当か?な、想われ方だろう。
「もっと早くおっしゃって下されば…」
「言ったって、どうせ振られてたに決まってる…」
完全にジークは乙女泣きみたいな状態だ…いやいや?何だか私が脈無しで冷たい態度なツンデレ男の立ち位置じゃないかな、これ?
乙女ジークは兎も角としても
私は思案した。例えば今逃げればイランゼさんを刺激するだけだろう。暫く様子を見た方がいいのか?しかし今回の呪術も笑いごとではすまない。
「どうしようかな〜」
「どんな償いもしますっ!」
「ん?ああジークの事じゃないの。イランゼさんの対応ですよ。メイド長ってことはお義母様の信頼も厚いのよね?」
ジークはほっとしたように私を抱き寄せた。
「家のメイドで一番古参だし、母上の嫁入りに実家から付いてきたくらいだ」
それは古株も古株…使用人の長と言っても過言ではないわね。
するとコンコン…と扉が叩かれた。
「ジークレイ様、夕食のご準備が出来ました」
イランゼさんだ…
私は消音魔法を解いた。ジークに目配せをする。
「分かった、すぐ行く」
ジークは私に手を添えて歩きながら小さく呟いた。
「絶対フィーには指一本触れさせないから、安心しろ」
こんな真面目な時に茶化すのも変だけど、仕事にもこれぐらい魔力メラメラにして頑張って欲しいな〜
さて
一応夕食は無事だった。料理は料理長が作るからイランゼさんでも呪術をかける隙がないのかもしれない。
ジークから事前情報を聞いているのもあり、さり気なくイランゼさんの給仕中の動きを注視していた。
成る程…ものの見事にジークの分はイランゼさんが給仕している。普通なら部下に任せるか、メイド長ならお義母様の給仕担当になるよね?
これはちょっと動いてみるか…
「ジーク、私少し気分が優れないので休んできてもいいかしら?」
ジークの腕を触りながら、指で合図をしながら、気分の悪いフリをした。
「フィー!?大丈夫?ラミヤ、寝所の支度頼むよ」
ラミアとは、私達のお世話係になった若いメイドの女の子だ。
ラミアは、はいっ!と返事をしてから何故かイランゼさんを見た。
するとイランゼさんは悠然と微笑んだ。
「ジークレイ様、ミルフィーナ様はラミアがお世話しますので、大丈夫です」
ほ〜お?そうきたか!
「あらっ!それは大変!ジーク早く連れて行ってあげなさい。ミルフィーちゃん後で薬湯を持って行くわね」
たまたまだろうが、お義母様が援護射撃をしてくれた。イランゼさんはイラッとした魔力を発した。ジークは大きく頷くと私を支えながら立ち上がった。
「ラミアッ…」
イランゼさんが鋭い声をあげた。
ラミアが慌てて私とジークの側にやって来た。
「若奥様は…私がお部屋に、お…お連れします。ので、ジークレイ様はそのお席にお戻りに…」
ラミア噛み噛みだわ…
ああ、イランゼさんから威圧的な魔力が放たれている。こんなあからさまに魔力をぶつけて来るなんて…使用人に有るまじき…不敬な魔力圧よ。
私がラミアに声をかけようとした時、お義父様が
「ジークレイ、早く連れて行ってあげなさい」
とおっしゃった。
ギギギ…という音をたてて魔力圧が部屋に放たれる。ジークは私を促したので、私とジークは廊下に出た。
「へ…部屋を整えてまいります」
ラミアはそう言って先に部屋へと移動した。
「ジークの見立てではラミアはどっちでしょうか?」
ジークは少し目を細めて、小走りで移動するラミアの後ろ姿を見ている。
「命令されてやむを得ず…だな」
私達は廊下を歩き出した。イランゼさんの魔力が私達の背後から纏わりついて来る。
「フィー…俺の部屋に魔物理防御障壁、張ってくれるか?」
まあ別にいいけど…私が妊婦さんだって忘れてないかな?旦那よ。