旦那を守るのも楽じゃありません
日頃の行い
気分の悪いフリをしてジークと部屋に戻ってきたのだが、ラミアが寝所を整えている間に何故だかイランゼさんが側に来ていた。
監視…なのかな?メイド長なのに自由だね。
「フィー今日はもう休ませてもらおうか?」
「そうですね、明日も仕事がありますし…」
「そうだ!ジークレイ様、お風呂の準備致しますわね」
その自由なメイド長はいきなりジークと私の会話に割り込んで話しかけてきた。メイドからご子息にいきなりよ?
はあ……本当に自由ね。私もジークも一応高位貴族の出自だし、貴族のマナーを親から徹底的に叩き込まれている。下位の者からしかもメイドからの声かけに、2人して固まってしまっていた。
ちょっと執事のクレントさんいないの?メイド長の上司よね。
ジークは魔質をピリッと尖らせた。まあ、ここは旦那に任せようか…ジークはゴミを生み出す男でその他色々と若干情けない所もあるが、仕事とか公の場でキリッとしているからね。
「イランゼ…」
「はいっ」
声が弾んでいるね、イランゼさん。こんなあからさまじゃ他の若い使用人も困るよね。
おばちゃん引っ込んでなよ!
…とは言えないしねぇ。仮にもメイド長だし。
「俺やミルフィーナだから大目にみるけど、こういう場で使用人が家人の話に割り込んで話しかけるのは良くないよ」
「…っ!?し、失礼…しました」
イランゼさんはすぐに謝罪したが、顔は驚きのままだった。そんな驚くことかな?常識よ?
そんな私達から少し離れてラミアが、真っ青な顔をして立っている。私はラミアの近くに行った。
「ラミア、支度ありがとう。助かりました」
私がそう言って笑うとラミアはやっと笑顔を見せてくれた。そんなラミアとは正反対に歪んだ魔質を私にぶつけてくるメイド長。
本当もう、クレントさんはどこだっ!?
クレントさんの居所はすぐわかった。カイトレンデス王太子殿下とアザミの婚姻の式典に参加する為に領地から出てくるジークの兄、サザーレイお義兄様をお迎えに行っているのだ。
普段からもクレントさんは領地経営をしているお義兄様の補佐として、領地の屋敷とここの屋敷を行ったり来たりをしているらしい。
それじゃあ、こちらの使用人の指導や采配はイランゼさんに任せてしまっていても仕方ないか。
イランゼさんはチラチラと私とジークを見ながら怪訝な顔をしたまま戻って行った。
いやだからさーそんな顔をされてもこっちが納得いかないわ!
そして、ベッドに腰かけていると本当に気分が悪くなってきたので、横になっているとお義母様とイランゼさんが薬湯を持って来た。
いやいやいやあ!?薬湯どころか、毒薬湯になってますけど?洒落にならないわね。
すると何かに気がついたのか、ジークは受け取った薬湯のカップを持っている私の耳元に口を寄せた。
「フィー、飲めないなら口移しで飲ませてあげようか?」
こらー!お義母様もいるでしょう!
するとお義母様が呆れたような笑いを含んだ声をあげた。
「ジークレイ、ここには若い子もいるのよ?少し自重しなさいな」
若い子…と言ってお義母様は笑顔でラミアを見た。ラミアは真っ赤になっている。
お義母様ぁ〜!若い子って言った瞬間、イランゼさんからギリギリ音がしそうな魔質がラミアにぶつけられてるのよ。
お義母様の天然も時に凶器になりますよ…私は皆が部屋を出て行く時にラミアに
「困ったことがあったら相談してね」
と声をかけた。この子は聡い子だからこれで気付くはず、案の定ラミアは大きく目を見開くと…頷いた。
さて、私は毒薬湯に浄化魔法を使ってから中身を捨てた。嫌がらせの限度を越えている…
ジークも怖い顔をして廊下を見詰めている。もしかしてまた聞き耳でもたてているのだろうか。消音魔法を使った。
「ジーク…イランゼさんの馴れ馴れしい態度、ご両親に相談されたことはないのですか?」
私は手荷物の中から魔物理防御障壁を描いた術紙を取り出すと、部屋の扉に貼った。
ジークは頭を掻いてあ〜とか、う〜とか言っている。
「ちょっと前に何回か『イランゼが気味が悪い』って母上に言ったことあるんだけど、逆に俺が怒られた。イランゼはメイド長としてとてもよく働いてくれているのに、変なこと言うな!お前はフラフラしてもう少しまともになれ…とか言われて。俺さ、自分で言うのも変だけど…ラヴィアの件から親に全然信用されてなくて…」
私はジロリとジークを睨んだ。
「それもこれも全て普段のジークの行いが悪いからでしょう?自称不良だか何だか知りませんが、常日頃から品行方正ならお義母様だって信じてくれたのですよ?」
「ごもっともです…」
「大体、あんな距離感で話しかけてくる前にジークが毅然とした態度を取っていればよかったのですよ?もしかして、変に遠慮して『使用人の範疇を超えて来るな』とか言わなかったのですか?親しき仲にも礼儀あり…主人と使用人の仲にも節度あり…どうですか?」
ジークは萎れて、ずっと俯いている。
「物心ついた頃からずっと一緒なんだ…もう1人の母親だと思っていた」
「はい」
「だから…そういう目で俺の事を見ているんじゃないかと疑うのも嫌だったんだ…母上の言う通りそう感じる俺が変なのかと…ずっと考えていた」
「そうですか…」
「フィーに感化されたけれど、俺もまずは寮に入って…そういう嫌悪の気持ちを抱いてしまう環境から抜け出そうとした。家を出て行く事に両親の許可が出て引っ越しの準備をしている所に、イランゼが急に来てこう言ったんだ。この屋敷の何が不満なのか?気に入らない所があるなら改善するから出て行かないでくれ…って」
「はあ?」
私は思わずジークにそう聞き返した。ジークは困った顔をして、何度も頷いている。
「本当にそう言ったんだ。使用人のイランゼがまるで女主人みたいなことを言っていて…俺がイランゼを捨てて出て行く男みたいだと…私にとってあなたはそうよ!と言っているみたいで、怖くてすごく悲しかった。やっぱりイランゼは俺を男として見ているんだって突きつけられた気がした」
母親のように思っていた人が急に生々しい女の部分を見せてくる…もう成人している年だったとはいえ、ジークにしてみればかなりショックだったに違いない。
「逃げる様に寮に入ったけど休みの度に、シラッとやって来て部屋に入ろうとしてくるし…」
「まあ…ああ、分かりましたよ。それで執務室に寝泊まりしていたのですね」
「あ、まあそれは寮の部屋を掃除をしてないからあそこに住めなくなったからってこともあるけど、あはは」
あはは…じゃないよ。結局汚部屋は汚部屋ということじゃないか。
「じゃあ私と結婚したのをイランゼさんは…」
「俺が直接本人に言ったことはないから、多分…母上から聞かされたんじゃないかな」
「それにしては、私に対する敵対心のようなものが今日初めて示されたような感じですよね…実際私の家に乗り込んで来たりもしてませんでしたし…」
「ああ…それは…」
ジークがそう呟いた後にそれはそれは綺麗な笑顔で私を見ている。何でしょうか?
「ありとあらゆる魔法を使って目くらましをしてから、フィーの家に帰ってたから!」
「へっ!?目くらまし?魔法で…何故また…」
「だってさ、それでなくてもジャレンティア王女殿下の件で、襲われる危険性もあるのにそこへもってイランゼが嫌がらせを仕掛けてきたら流石に困るだろ?」
「確かに…あの王女殿下だけでも疲れましたものね」
そうか…私の家の所在地はジークが誤魔化してくれたのでイランゼさんにはバレていなかったのか。それで私がこの家にやっと来たので待ってました…とばかりに仕掛けてきたのか。
「お義母様が信頼しているのが困りますよね。例え私が訴えても、下手をすれば私がイランゼさんに逆に嫌がらせをしていると取られかねないし…」
「そうなんだよなぁ…母上の実家から一緒に来ているし…母上としては妹とかそういう感じなんだと思うんだ。だからこそ、そういう扱いをしてしまったがためにイランゼが立場を弁えずに俺にグイグイきている…と言っても過言ではない」
ジークと2人、深い溜め息をついた。少し気分を変える為にお茶を入れて喉を潤した。
悠長に構えていることは出来ない。う~ん、どうするかな~
「やっぱり母上からの不興を覚悟でイランゼに直接言うか」
「それしかないですね、例えイランゼさんがお義母様に泣きついてお母様が私達の味方をしてくれないのでしたら、うちに帰っちゃえばいいのですよ。こういう時に持ち家があってよかったですね」
「お、そうだな。俺達が出て行けばイランゼはついて来れないしな~もし付いてきたら、さすがに母上も俺達の言い分が正しかったってわかるしな」
「そうですね」
そして翌朝です。
私とジークは仕事に出かける準備をしていた。この日も朝からイランゼさんがジークの着替えの手伝いに来ていた…がっ!
ふふん、私が一歩早くジークに着替えをさせて準備を整えておいた。地味だけど、『先んじて仕事を取り上げてしまおう作戦その1』である。
ジークのお世話を極力させないように私が先回りして済ますことにしたのだ。
昨日はイランゼに直接言ってやろう!と息巻いていたが…
実はラミアが夜遅くにメイドの女の子と侍従の男の子の計5人で私達の部屋を訪れて聞かせてくれたのだ。皆、小刻みに震えて泣いていた。
「ジークレイ様のお世話は全てイランゼさんが行うという決まりが私達使用人にはあるのです。破るとそれはそれは怒られるのです。そして…そのジークレイ様の恋人が屋敷に居る間は私達はなるべくお世話しないように…ともきつく言い含められています。勿論このことは外に漏らさないようにと言われています」
ラミア達から話を聞いて唖然とした。
メイドや侍従の子達はイランゼさんの横恋慕に気が付いていたらしい。実は自分達の先輩の何人かは、イランゼさんを諫めたりこの横暴をお義父様に打ち明けようとしたらしい。
「ところが皆さん急にお勤めを辞めたり…仕事に来なくなったりして…私、一度仲の良かった先輩のお住まいにこっそりとお邪魔したことがあるのです。そこですっかりやつれてしまった先輩を見つけました。何でも急に体調を崩してしまって寝込んでいるとか…で」
ああ、これ呪術だわ。なんてこと…同僚の使用人も呪うなんて。私はその先輩の使用人のご住所を教えてもらった。まだお住まいになっているなら、呪術を祓ってあげなくては…
ジークはめっちゃ怖い魔圧を放っていた。やっぱりうちの旦那様、自分が害されるより周りの誰かが傷つけられることに怒るタイプよね。
「皆…よく打ち明けてくれた。今までメイド長の横暴によく耐えてくれた。安心してくれ。俺が、俺とミルフィーナが来たからには必ず始末をつける」
私はラミアと呪術攻撃をうけた先輩に会いに行ってくれたメイドの女の子をギュっと抱き締めた。
「怖かったね。よく頑張ってくれたわ…それとジークレイのことで迷惑かけてごめんなさいね」
「ふぇ…っ若奥様ぁぁ…!」
女の子達大号泣である。消音魔法が使えてよかったわ。
夜にそんなことがあったものだから、イランゼさんが言い逃れが出来ないようにぎゃふんと言わせてから、断罪してやろうとジークと今後の方針を固めたのだ。
イランゼさんは支度の終えたジークを見て、私を見てきた。その目は余計な事するな!と言っているようだ。
「随分、不躾な目ですね」
「…!」
「私はジークの妻ですから夫の全てをお世話する権利があります。当然ですよね?」
さあ反撃の開始よ。
監視…なのかな?メイド長なのに自由だね。
「フィー今日はもう休ませてもらおうか?」
「そうですね、明日も仕事がありますし…」
「そうだ!ジークレイ様、お風呂の準備致しますわね」
その自由なメイド長はいきなりジークと私の会話に割り込んで話しかけてきた。メイドからご子息にいきなりよ?
はあ……本当に自由ね。私もジークも一応高位貴族の出自だし、貴族のマナーを親から徹底的に叩き込まれている。下位の者からしかもメイドからの声かけに、2人して固まってしまっていた。
ちょっと執事のクレントさんいないの?メイド長の上司よね。
ジークは魔質をピリッと尖らせた。まあ、ここは旦那に任せようか…ジークはゴミを生み出す男でその他色々と若干情けない所もあるが、仕事とか公の場でキリッとしているからね。
「イランゼ…」
「はいっ」
声が弾んでいるね、イランゼさん。こんなあからさまじゃ他の若い使用人も困るよね。
おばちゃん引っ込んでなよ!
…とは言えないしねぇ。仮にもメイド長だし。
「俺やミルフィーナだから大目にみるけど、こういう場で使用人が家人の話に割り込んで話しかけるのは良くないよ」
「…っ!?し、失礼…しました」
イランゼさんはすぐに謝罪したが、顔は驚きのままだった。そんな驚くことかな?常識よ?
そんな私達から少し離れてラミアが、真っ青な顔をして立っている。私はラミアの近くに行った。
「ラミア、支度ありがとう。助かりました」
私がそう言って笑うとラミアはやっと笑顔を見せてくれた。そんなラミアとは正反対に歪んだ魔質を私にぶつけてくるメイド長。
本当もう、クレントさんはどこだっ!?
クレントさんの居所はすぐわかった。カイトレンデス王太子殿下とアザミの婚姻の式典に参加する為に領地から出てくるジークの兄、サザーレイお義兄様をお迎えに行っているのだ。
普段からもクレントさんは領地経営をしているお義兄様の補佐として、領地の屋敷とここの屋敷を行ったり来たりをしているらしい。
それじゃあ、こちらの使用人の指導や采配はイランゼさんに任せてしまっていても仕方ないか。
イランゼさんはチラチラと私とジークを見ながら怪訝な顔をしたまま戻って行った。
いやだからさーそんな顔をされてもこっちが納得いかないわ!
そして、ベッドに腰かけていると本当に気分が悪くなってきたので、横になっているとお義母様とイランゼさんが薬湯を持って来た。
いやいやいやあ!?薬湯どころか、毒薬湯になってますけど?洒落にならないわね。
すると何かに気がついたのか、ジークは受け取った薬湯のカップを持っている私の耳元に口を寄せた。
「フィー、飲めないなら口移しで飲ませてあげようか?」
こらー!お義母様もいるでしょう!
するとお義母様が呆れたような笑いを含んだ声をあげた。
「ジークレイ、ここには若い子もいるのよ?少し自重しなさいな」
若い子…と言ってお義母様は笑顔でラミアを見た。ラミアは真っ赤になっている。
お義母様ぁ〜!若い子って言った瞬間、イランゼさんからギリギリ音がしそうな魔質がラミアにぶつけられてるのよ。
お義母様の天然も時に凶器になりますよ…私は皆が部屋を出て行く時にラミアに
「困ったことがあったら相談してね」
と声をかけた。この子は聡い子だからこれで気付くはず、案の定ラミアは大きく目を見開くと…頷いた。
さて、私は毒薬湯に浄化魔法を使ってから中身を捨てた。嫌がらせの限度を越えている…
ジークも怖い顔をして廊下を見詰めている。もしかしてまた聞き耳でもたてているのだろうか。消音魔法を使った。
「ジーク…イランゼさんの馴れ馴れしい態度、ご両親に相談されたことはないのですか?」
私は手荷物の中から魔物理防御障壁を描いた術紙を取り出すと、部屋の扉に貼った。
ジークは頭を掻いてあ〜とか、う〜とか言っている。
「ちょっと前に何回か『イランゼが気味が悪い』って母上に言ったことあるんだけど、逆に俺が怒られた。イランゼはメイド長としてとてもよく働いてくれているのに、変なこと言うな!お前はフラフラしてもう少しまともになれ…とか言われて。俺さ、自分で言うのも変だけど…ラヴィアの件から親に全然信用されてなくて…」
私はジロリとジークを睨んだ。
「それもこれも全て普段のジークの行いが悪いからでしょう?自称不良だか何だか知りませんが、常日頃から品行方正ならお義母様だって信じてくれたのですよ?」
「ごもっともです…」
「大体、あんな距離感で話しかけてくる前にジークが毅然とした態度を取っていればよかったのですよ?もしかして、変に遠慮して『使用人の範疇を超えて来るな』とか言わなかったのですか?親しき仲にも礼儀あり…主人と使用人の仲にも節度あり…どうですか?」
ジークは萎れて、ずっと俯いている。
「物心ついた頃からずっと一緒なんだ…もう1人の母親だと思っていた」
「はい」
「だから…そういう目で俺の事を見ているんじゃないかと疑うのも嫌だったんだ…母上の言う通りそう感じる俺が変なのかと…ずっと考えていた」
「そうですか…」
「フィーに感化されたけれど、俺もまずは寮に入って…そういう嫌悪の気持ちを抱いてしまう環境から抜け出そうとした。家を出て行く事に両親の許可が出て引っ越しの準備をしている所に、イランゼが急に来てこう言ったんだ。この屋敷の何が不満なのか?気に入らない所があるなら改善するから出て行かないでくれ…って」
「はあ?」
私は思わずジークにそう聞き返した。ジークは困った顔をして、何度も頷いている。
「本当にそう言ったんだ。使用人のイランゼがまるで女主人みたいなことを言っていて…俺がイランゼを捨てて出て行く男みたいだと…私にとってあなたはそうよ!と言っているみたいで、怖くてすごく悲しかった。やっぱりイランゼは俺を男として見ているんだって突きつけられた気がした」
母親のように思っていた人が急に生々しい女の部分を見せてくる…もう成人している年だったとはいえ、ジークにしてみればかなりショックだったに違いない。
「逃げる様に寮に入ったけど休みの度に、シラッとやって来て部屋に入ろうとしてくるし…」
「まあ…ああ、分かりましたよ。それで執務室に寝泊まりしていたのですね」
「あ、まあそれは寮の部屋を掃除をしてないからあそこに住めなくなったからってこともあるけど、あはは」
あはは…じゃないよ。結局汚部屋は汚部屋ということじゃないか。
「じゃあ私と結婚したのをイランゼさんは…」
「俺が直接本人に言ったことはないから、多分…母上から聞かされたんじゃないかな」
「それにしては、私に対する敵対心のようなものが今日初めて示されたような感じですよね…実際私の家に乗り込んで来たりもしてませんでしたし…」
「ああ…それは…」
ジークがそう呟いた後にそれはそれは綺麗な笑顔で私を見ている。何でしょうか?
「ありとあらゆる魔法を使って目くらましをしてから、フィーの家に帰ってたから!」
「へっ!?目くらまし?魔法で…何故また…」
「だってさ、それでなくてもジャレンティア王女殿下の件で、襲われる危険性もあるのにそこへもってイランゼが嫌がらせを仕掛けてきたら流石に困るだろ?」
「確かに…あの王女殿下だけでも疲れましたものね」
そうか…私の家の所在地はジークが誤魔化してくれたのでイランゼさんにはバレていなかったのか。それで私がこの家にやっと来たので待ってました…とばかりに仕掛けてきたのか。
「お義母様が信頼しているのが困りますよね。例え私が訴えても、下手をすれば私がイランゼさんに逆に嫌がらせをしていると取られかねないし…」
「そうなんだよなぁ…母上の実家から一緒に来ているし…母上としては妹とかそういう感じなんだと思うんだ。だからこそ、そういう扱いをしてしまったがためにイランゼが立場を弁えずに俺にグイグイきている…と言っても過言ではない」
ジークと2人、深い溜め息をついた。少し気分を変える為にお茶を入れて喉を潤した。
悠長に構えていることは出来ない。う~ん、どうするかな~
「やっぱり母上からの不興を覚悟でイランゼに直接言うか」
「それしかないですね、例えイランゼさんがお義母様に泣きついてお母様が私達の味方をしてくれないのでしたら、うちに帰っちゃえばいいのですよ。こういう時に持ち家があってよかったですね」
「お、そうだな。俺達が出て行けばイランゼはついて来れないしな~もし付いてきたら、さすがに母上も俺達の言い分が正しかったってわかるしな」
「そうですね」
そして翌朝です。
私とジークは仕事に出かける準備をしていた。この日も朝からイランゼさんがジークの着替えの手伝いに来ていた…がっ!
ふふん、私が一歩早くジークに着替えをさせて準備を整えておいた。地味だけど、『先んじて仕事を取り上げてしまおう作戦その1』である。
ジークのお世話を極力させないように私が先回りして済ますことにしたのだ。
昨日はイランゼに直接言ってやろう!と息巻いていたが…
実はラミアが夜遅くにメイドの女の子と侍従の男の子の計5人で私達の部屋を訪れて聞かせてくれたのだ。皆、小刻みに震えて泣いていた。
「ジークレイ様のお世話は全てイランゼさんが行うという決まりが私達使用人にはあるのです。破るとそれはそれは怒られるのです。そして…そのジークレイ様の恋人が屋敷に居る間は私達はなるべくお世話しないように…ともきつく言い含められています。勿論このことは外に漏らさないようにと言われています」
ラミア達から話を聞いて唖然とした。
メイドや侍従の子達はイランゼさんの横恋慕に気が付いていたらしい。実は自分達の先輩の何人かは、イランゼさんを諫めたりこの横暴をお義父様に打ち明けようとしたらしい。
「ところが皆さん急にお勤めを辞めたり…仕事に来なくなったりして…私、一度仲の良かった先輩のお住まいにこっそりとお邪魔したことがあるのです。そこですっかりやつれてしまった先輩を見つけました。何でも急に体調を崩してしまって寝込んでいるとか…で」
ああ、これ呪術だわ。なんてこと…同僚の使用人も呪うなんて。私はその先輩の使用人のご住所を教えてもらった。まだお住まいになっているなら、呪術を祓ってあげなくては…
ジークはめっちゃ怖い魔圧を放っていた。やっぱりうちの旦那様、自分が害されるより周りの誰かが傷つけられることに怒るタイプよね。
「皆…よく打ち明けてくれた。今までメイド長の横暴によく耐えてくれた。安心してくれ。俺が、俺とミルフィーナが来たからには必ず始末をつける」
私はラミアと呪術攻撃をうけた先輩に会いに行ってくれたメイドの女の子をギュっと抱き締めた。
「怖かったね。よく頑張ってくれたわ…それとジークレイのことで迷惑かけてごめんなさいね」
「ふぇ…っ若奥様ぁぁ…!」
女の子達大号泣である。消音魔法が使えてよかったわ。
夜にそんなことがあったものだから、イランゼさんが言い逃れが出来ないようにぎゃふんと言わせてから、断罪してやろうとジークと今後の方針を固めたのだ。
イランゼさんは支度の終えたジークを見て、私を見てきた。その目は余計な事するな!と言っているようだ。
「随分、不躾な目ですね」
「…!」
「私はジークの妻ですから夫の全てをお世話する権利があります。当然ですよね?」
さあ反撃の開始よ。