加瀬くんのカノジョはもうやめる。
ふぅー。
息を整える私。
インターホン押さなきゃ。
花火大会の時と一緒になっちゃう。
「押せっ!!」
私は勢いをつけてボタンを押した。
ピンポーン…
どうしよう、心臓バクバクいってる…
会ったら言うって決めたんだから、
しっかりしないと!
ガチャ…
ドアの開く音がして、
そこから加瀬くんが姿を現した。
「あのなぁ、だから早いって言ってんだろ?」
「…加瀬くん…」
どうしてだろう。
加瀬くんを見るとホッとして涙が出そうになった。
「芹奈?何かあったのか?」
加瀬くんがすぐに気づき、私の顔を覗き込む。
「ううん、なんでもない!ちょっとホッとしちゃっただけ!」
「何だそれ?」
加瀬くんは、意味わかんねぇよと言いながら私を部屋へ上がらせた。
「まだ準備終わってないの?」
「だから、芹奈が早いんだって言ってるだろ」
少しキレながらネクタイを結ぶ加瀬くん。
加瀬くんは、築島くんほど優しくないし、
意地悪だし、
口調だって素っ気ないけど…
その中に優しさがあって。
記憶が戻らなかったら私は気づかないままだった。