あの日の君ともう一度
忘れ物したのを思い出し、取りに戻ってみたものは――


ノスタルジックな雰囲気漂う夕暮れの教室で、物語を朗読する彼。


「過ぎゆく時に、名もなき花に、一体何の意味があるのか。少年は思う、“そこに在ることに意味があるのだ”と」


演技者のように読む姿は、普段の彼とはまるで別人。


呆然と佇む私に彼が振り返り。


「――覗き見とは悪趣味、だな」


なんだろう、心に響くこの感じ。


「何か言えよ」

「あ、ごめんなさい……とらわれてしまって」


紺碧の双眸が大きく見開かれ、一体何を思ったのか、突然メモを取り始めた。


私は思わずぽかんとする。意味不明な私の発言に、意味不明な彼の行動。


「よく物語を朗読するんだけど、好きなだけで意味がなかった。今までは。オレ遠くへ引っ越すんだよ。気が向いたら――」


彼はそう言って微笑んだ。



私にたった一枚のメモを残して。


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