BLACK REFLECTION -月の警告-
さっきまで聞こえていた声からはワントーン上がった声とともに、顔の辺りに人の気配を感じた。
“サナちゃん”
こんなふざけた呼び方をする人に、ひとりだけ心当たりがある。
「すみません朧さん、知らない奴に迷惑かけられてばっかで……、」
一夜限りの関係だと思った。
なのに、またすぐに再会してしまう……なんて。
あの声色がなんとなく怖くて目は開けられないまま、わたしが呟くように言うと、「あー……、」という気まずそうな声が聞こえた。
「迷惑なのは時田。バカだし」
「朧さんナチュラルにひどいです」
“朧さん”と尊敬するような呼び方、そして敬語……、それなのに“ひどい”なんて言えちゃうような関係。……羨ましい。
ほかにも思うこと、考えることは山ほどあるはずなのに、最初に思ったのはそれだった。
「あの……紗菜、さん?加減はどうすっか……?」