愛染堂市
数分掛けて大通りをほぼ端から端まで走り抜けたけど、アドルの姿は見つけられない。
アタシは焦る気を拭えないままアズル達の居る路地裏に向かった。
――密かに慌ただしくなる大通りに考えがまとまらない。
元々考える事は得意じゃないけど、現状に切迫した感じを受ける。
優先順位を整理しなくちゃいけないのに、気が焦るばかりで全く頭が働かない。
路地裏の日陰に吹く風が不意にアタシの額の汗をかすめ、心地良さと同時に疲労感が甦り、アタシはそこにへたれこむ。
子供達のキャッキャッと騒ぐ声にアタシは顔を上げる。
『――アドル・・・と誰?』
アドルがアタシの苦労も知らずにアズル達と騒いでいる。
それよりもアドルと一緒に居る男は誰だろう?
カーキのシャツを着た若い男をアタシは疲労で窪みきってしまいそうな目で眺める。
背丈はそれ程低くないけど、アメリカ人やアフリカ人とも違う感じがする。
何よりも短いけど少し懐かしい艶やかな黒髪をしていた。