愛染堂市
―――――中島



 奴が一度引いた左足を、再度前に出した瞬間に、俺の体は反応した。

その瞬間は、若造が声を上げ俺を呼び、身を起こそうとした一瞬だった。

俺の体は、失いかけていた感覚に、自然に押される様に前に出たが、大昔程の野性味に欠けていて、若造に刃が届く前には間に合わなかった。

若造を切り付けた次の瞬間に奴は案の定、俺を標的に捉える為に体をよじった。

勘が後押ししてくれなければ、奴はそのカッターの刃で間髪入れずに、俺を切り付けただろう。

俺は幸いにも命拾いしたらしい。



 奴の真横まで飛び込んだ俺の気配に奴はすぐさま気付いた。

そして俺の方を向くなり、不気味にニヤけやがる。



奴は手に持ったカッターを、流れるように俺に突き付けようと姿勢を変える。

俺は、昔程動かなくなった体をよじり、左足を軸にして奴のカッターナイフを持つ手を蹴り上げ様とする。



だが奴は俺の右足を軽く避け、上体を後ろに反らす様に返して、俺との距離をとる。


「・・・中島さん?だっけ?・・・あんた以外と反応いいじゃん?」


 奴は俺を小馬鹿にする様に、半笑いしながら俺との距離を保つ。


『・・・お前何者だ?』


「・・・さあ」


随分と余裕な野郎だ。

おそらくこのままやり合っても、大怪我するのは俺の方だろう。


『・・・さてどうする?』

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