愛染堂市
新宿区役所近くの路地裏、流石にここまでは歌舞伎町の喧騒は届かず静かなもんだ。
停めた車の横を通る奴と言ったら、ゴールデン街あたりで呑んで、ヨタヨタと歩くくたびれた年寄りの酔っ払いが、タクシーを拾おうと通りまで歩いて行くくらいのものだった。
二十一世紀を目前に控え、劇場の前の噴水も無くなり、街中はバブルの頃程の賑わいは無くなったが、この辺りの雰囲気は変わらない。
俺が警官に成り立ての頃のままだ。
街が人を写し出すように、この街が俺の心を写し出す。
上っ面が時代の流れに逆らえず変化しても、中身を変える事は出来ないらしい。
『――FBIの資料は確かに変だ』
煙草の煙と共に、俺の口から本音がこぼれ落ちる。
この街の路地裏で俺が抱いた思いは、懐かしいなと思い返すだけの昔の自分だけじゃなく、路地裏に置いてきた青臭い時のままの俺だったようだ。