愛染堂市
岸本は血の止まらない鼻を押さえながら、出入り口のドアを乱暴に開け一目散に駆け逃げる。
『――ったく、締まりの無え野郎だ』
俺は岸本が逃げ、開け放れた出入り口のドアを閉める。
暖簾に少し奴の血が付いている。
「山本さん・・・有り難う御座います」
オヤジが申し訳なさげに涙目で俺に言う。
『オヤジが礼を言う事じゃねぇ、聞いての通り俺の組に扱いが代わっただけだ。毎月キッチリ返して貰うぜ』
「ハイ、何年掛かろうと必ず返します」
オヤジはそう言いながら、奥から新しいグラスを出し俺に手渡す。
『・・・何年?オヤジ、美山の所から一体いくら借りたんだよ?』
オヤジは俺の言葉に、ゆっくりと片手を挙げる。
『なんだ・・・五本じゃねぇか、俺はてっきり十本から上いってるかとヒヤヒヤしちまったじゃねぇか!!・・・一千万なんて金はウチみたいな貧乏ヤクザにゃ厳しいからな』
俺はオヤジから新しいグラスを受け取り、ビールを注ぎながら言う。
「いや・・・山本さん、その・・・」
オヤジが更に涙目でカタカタと震えだした。
『おいおいオヤジまさか・・・』
「・・五千万なんですけど」