愛染堂市
 
 アドルが通りを指差しながら「カー」と呟く。

アドルの指す方向に、さっき食料品店の土壁に半分突っ込んだバンが見える。


『動くかな?』


アタシが一人事のように呟くと、アドルがアタシの目を真っ直ぐに見ながら頷く。


『アドル、みんなを見ててくれる?』


アタシの言葉にアドルは心強く頷く。


『さすがは男の子だね、頼むよ!!』


アタシはアドルの頭を少し乱暴に撫でウィンクしながら言う。

アドルは少し照れ臭そうにはにかみ、親指を上げて白い歯を見せる。

アタシは『ヨシっ』と気合いを入れ、自分の頬を叩きながら立ち上がる。

 通りのトラックまで50メートルも無いだろう、問題は砂煙が舞い上がる通りに出てから。

通りの様子を伺い知る事は出来ないけど、さっきよりも銃弾の飛び交う音は激しさを増している。


『あんた達を絶対に教会に連れて帰るからね!』


アタシは子供達にガッツポーズを見せて、通りに向かって走る。

通りは乾いた風が赤土を舞い上げている。

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