愛染堂市
―――――中島



 銃声が止む。

非常口に横たわる小池の亡骸が頭を過ぎる。

悲しみに暮れる婦人に、労いの言葉すら掛ける事の出来ない、間抜けに佇む制服姿の自分を想像する。


――そんな場面でしか制服は着ねえな


くだらない事を脹ら脛の痛みを堪えながら、数回の瞬きの内に考える。


『――イチ・・ニィ・・』


静かに声に鳴らない位に呟きながら、呼吸と体のタイミングを計る。

俺が飛び出すタイミングを見計り、いざと言う瞬間「――チンッ」と緊張感を削ぐような音がフロアに響く。


『――っくそっ!!エレベーター』


ドアの開く音と同時に、サイレンサーに押し殺された「パシュリ」という掠れた銃声が聞こえ、すぐさま何かが倒れる音がする。


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