愛染堂市
―――――中島



 もつれそうな足を勢いに任せ、一気に非常階段を駆け下りる。

脹ら脛を伝う流血が、靴下に染み込み違和感を覚えるが、不思議と痛みは緩い。

地上まで、あと三、四段って所でエンジン音が聞こえ、俺はビルの壁を沿うように突っ走り、勢い良く路地へ飛び出す。

 俺の足音に感付いていた例のスーツの男が、待ち構えていたように此方に発砲する。

俺は路地を走り抜けるように、ニューナンブで応戦する。

俺の真横をヒュンと横切る奴の弾の音が耳障りに囁き、俺の撃った弾がドイツ車の窓ガラスを突き割る音が暗い路地に響き渡る。

――確実な手応えはあった

俺は路地を走り抜け電柱の陰に逃げ込み、しっかりと手に感じた感覚を確かめるように銃を握り直す。

そして電柱から、そっと顔を出し、奴らの様子を確認する。

 俺の撃った弾はドイツ車の後部ガラスを突き割り、運転手の後頭部を撃ち抜いていた。

スーツの男は、既に後部座席に乗り込んでいたアメリカ人を、乱暴に引きずり出し、襟首を掴んだまま明治通り方向へ走り出した。

俺は形勢の逆転した事を悟り、ニューナンブを抱えたまま奴を追う。

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