愛染堂市
 
女は俺の言葉に、表情を険しくしながら睨みつけ、片手をコチラに差し出した。


「逃げたくても立てないのよ!!アンタ手ぇ貸してよ!!」


『ハァっ?!』


「腰抜けたのよ!!悪い?!」


『・・ったく、なんだよこの女』


俺は銃を肩に掛け、女の差し出された左手を掴み、少し乱暴に引き上げる。


「ヒャッ!!」


女は立てはしたものの、そのままバランスを崩し、俺に持たれ掛かり、俺は女を抱きかかえるような形になった。


「ちょっと!!」


女は次の瞬間俺を乱暴に突き飛ばす。


『ハァっ?!何なんだよアンタ?!』


女は申し訳のお礼も言わず、ヨロヨロしながらケツや足の砂埃を叩き払い始めた。


『・・・どうもの一言も言えないのかよ』


「どうも」


女は無愛想に言い放つ。


『なんだよ、その言い方?』


「あら、お気に召さない?どうもスイマセンデシタ」


女は益々無愛想に言い放つ。


『・・ったく、ほっとけば良かったよ。・・さっさと消えろよ、間も無くホテル前に居た奴らが追い付いてくるぞ』


「ウソ?!」


『アンタに嘘付いても仕方無いだろうが?出来れば俺も嘘であってほしいくらいだな・・』


女は突然慌て出し、辺りをキョロキョロと見回し始めた。


「ねえ?このトラック動くかな?」


『さぁ無理じゃねえの?』


「・・でもイスズだし」


『ハァっ?!訳分かんねえし』


女の馬鹿な会話に付き合っていると、通りの向こうから数人の人影と、車が舞上げる砂煙が見えた。


――来やがった!!

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