愛染堂市
―――――中島



 夜の花園神社は、日本一の歓楽街がすぐそばにあるとは思えない程ひっそりしている。

息を潜めゆっくりと歩く、俺のドイツ製の靴の軟らかい靴底ですら、参道の石畳を鳴らし、境内に響く。

俺はアメリカ人の姿を見失ったと同時に、スーツの男の姿も見失った。

奴が先にアメリカ人を見つけていなければ、俺同様この境内を息を殺して探している事だろう。

ビルの間にポッカリと空いた、このL字型の空間に植えられた僅かな木々のざわめきが、より一層俺の緊張を高める。


――どう転んでも勝負は一瞬


ニューナンブを握る手に汗を感じ、グリップを補うように強く握りなおす。

闇に目を凝らし、耳を限界まで研ぎ澄ます。

五感で感じる事の出来る感覚を総動員し、闇に潜むアメリカ人と奴を捕らえる。


―――っ?!


僅かに地面を擦る靴底の音を、俺の右から感じる。

俺はすぐさま、音の感じた方へ銃口を向ける。

暗闇を横に走る影を捕らえ、その足元に発砲する。

ニューナンブの発砲音と、弾丸が石畳を叩きつける音が甲高く境内に響き渡る。

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