愛染堂市
―――――中島



 奴の銃弾が俺の肩をかすめる。


――っくそ!!デリンジャーか!!


奴の袖口から垣間見た光に身を構えたが、完全に弾道を見切る事は適わなかった。

単発式のデリンジャーに俺は完全に不意を突かれた。

奴は俺の怯んだ隙を見逃す事なく、デリンジャーを投げ捨て、片手で体操選手のような身のこなしで立ち上がり、俺が撃ち抜いた筈の左足を軸足に右足を蹴り上げ、俺が構えているニューナンブを上空に放る。


『がっ!!』


蹴り上げられた右足は振り下ろされる事の無いまま、真っ直ぐと俺のみぞおちを激しく突く。

そして俺はその一瞬の出来事に贖う術を持てぬまま後方へ倒れ込む。


『げはっ!!』


胃液にも似たような唾気が喉奥から押し寄せ、嗚咽の様に咳き込み激しく唾を吐き出す。

奴はそれを見届けると、ゆっくりと右足を下ろし、落ちたニューナンブを拾い上げ、今度は逆に俺に銃口を向ける。


――情けねえ


飄々と街を歩き、表参道あたりの嫌味なカフェテラスなんかで、涼しげにダージリンでも飲んでいそうな若造に、手も足も出ないまま俺は殺されるのかと思うと、みぞおちの痛みはより痛烈に感じた。

奴は俺のそんな憤りを知ってか知らずか、無言のまま、ゆっくりとニューナンブのハンマーをカチャリと押し上げる。

奴の目は涼しいままで、その奥に何の躊躇いも無い深い闇を覗かせる。

奴とその目線を交えた時に、俺は初めて気付く。

格が違うとか、そう言った話じゃない、奴の中に通っているモノそのものが違う。

それは俺に恐怖と似た違和感を覚えさせる。


――コレで終わりか・・


俺が何もかもを諦め、静かに目を閉じようとした瞬間、後方でアメリカ人が石畳を『ジャリッ』とならし、撃ち抜かれた片足を庇いながら立ち上がる。


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