愛染堂市
奴はつぶさに俺の背後のアメリカ人の動きを察知し、アメリカ人の足元めがけ銃弾を放つ。
「ひいぃっ!!」
石畳を激しく弾く音が境内に響き、切り立った渓谷の様にこの空間を圧迫するビル群が瞬く間に音を吸い取り、すぐに静寂が支配する。
そんな静寂の中、俺とアメリカ人の荒くなった呼吸だけが、奴のすっかり落ち着いた呼吸を際立たせ、これ以上無い程の劣勢で在ることを見せ付ける。
そして奴は、ニューナンブの銃口を俺の目先に戻す。
銃口から僅かに煙が上がり、奴の顔の前あたりで揺らぐ。
――俺はニューナンブの初弾に空砲は入れない、普通なら今の一発で弾倉は空になるが、残念な事に俺のニューナンブには確実に後一発残っていやがる。
自分のスタイルが仇になった事が悔やまれる。
奴は表情も変えず、本来は必要のない撃鉄を起こす。
それは正に執行の合図のようで、俺は背中を蠢くように上がってくる猛烈な寒気と緊張に体が強張り、視界を失いかける。