愛染堂市
石畳の僅かな隙間でも、足をつまらせてしまいそうな程、集中力は銃口に注がれ、俺は必要以上に慎重に奴ににじり寄る。
呼吸すら困難と思える程の数メートルを歩き、あと数歩で奴の鼻先と言う所で靖国通り側の参道から突然響く音に、俺の体は一瞬強張った。
その音は境内の静寂を裂き、ビルに囲まれたこの場所を反響し、瞬く間に空間を支配した。
そして一瞬でも光明が差した俺の心を打ち砕いた。
音は確実に境内の中央に居る俺達を目指し、靖国通り側の参道から此方に近付いてくる。
一瞬の出来事で、一投のベッドライトが見えるまで、その音がバイクのエンジン音と石畳を刻むタイヤのスキール音だった事が認識出来なかったが、その姿が見えた時に、俺は味方では無いことがすぐに悟れた。
奴はバイクに意識を奪われた俺を見逃す事なく、また左脚を軸に右脚を蹴り上げようとした。
しかし俺の体も今度は素早く反応し、体を逸らし奴の爪先をギリギリで避けきった。
『ふん、そう何度も易々と食らってたまるかよ!!』
だが、避けきったのも束の間、逸らした体勢を戻す間もなく、俺目掛けて先程のバイクが突っ込んで来る。
『クソったれ!!』
俺は精一杯に石畳を蹴り出し、体を横に投げる。