愛染堂市
バイクの突撃は避けきったものの、横に投げた体は致命的と言っていい程に体勢を崩し、奴の両手に余る程の隙を与える。
奴は勿論そんな隙を見過ごしてくれる程デキた人間じゃないらしく、空のニューナンブを投げつけ、間髪入れずに飛び込んでくる。
俺は顔面に投げつけられたニューナンブを避けるも、飛び込んで来た奴の拳を避けきれず、首がへし折れそうな程のキツい一発を左頬にモロに食らう。
視界が霞み意識が一瞬にして途切れてしまいそうになる。
そして間も無く感じる、歯茎が根こそぎ千切れてしまいそうな激痛と、瞬く間に口内を埋め尽くす血液の熱が、意識を無理矢理に引き戻し、終わってくれそうにない苦痛を与える。
奴は勿論、俺をその場に膝まつかせる事を許さずに、腹に顔にと追い討ちをかけてくる。
右手に辛うじて握られたニューナンブを構えようにも、奴に詰められた間合いに付け入る隙は存在せず、全く抵抗は許されないまま、ただサンドバッグのように無様に殴られ続ける。
「――オイ熱くなるな、時間が無い。早く始末を付けて行くぞ」
バイクの男のヘルメットに籠もった声が聞こえる。
その声のあと、奴の猛攻が止み、俺は解放された様に力無く地面に膝を着く。
そして、そのまま崩れ落ちそうになる俺の耳に耳鳴りのようなサイレンの音が聞こえ始める。