愛染堂市
 アタシは本当に馬鹿だ。



 いつもそう。

 男が優しい顔を見せると男を信じてしまう。

何度も何度もそうやって男に酷い目に会わされて来たのに。



『・・・・ホント?』



「あぁモチロン!!
・・・取り合えず俺はハッタリかませりゃ
それでいいだけだからさ!!」



 アタシは黙って頷いた。



ホントにアタシはつくづく馬鹿だ。

銃を突き付けられて男を信じるも何も無い。

 アタシはさっきまで警察とやり合ってた男に銃を突き付けられて脅されているのにも関わらず、この男を信じようとしている。

 この男は何人も人を殺しているに違いない、そんな匂いをプンプンさせているのに、アタシは優しい表情に騙されようとしている。



 男は銃をアタシに突き付けたまま、バッグを抱えたアタシの右手を引き、通りの向こう側に停まっている男の車までアタシを連れていく。

 アタシは抵抗もせずに男に引っ張られるまま通りを渡る。



「乗れ」



 男はそう言ってアタシの尻を押してバンの助手席に押し詰める。

バンの中は強い芳香剤の匂いと混ざって血生臭い匂いがした。

真っ黒なスモークガラスに包まれた後部座席の後ろの方のトランクルームにビニールの包みが見えた。

 アタシはその包みに嫌な雰囲気を覚えて目を逸らす。



――ホントにアタシは馬鹿だ。


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