愛染堂市
『キャッ!!』
バカオトコを怒鳴りつけていると、不意に右手を掴まれ、アタシは声を上げる。
アタシは掴まれた右手に視線を向ける。
助手席で苦しんでいる彼が、アタシの右手を必死に掴みながら、何かを呟くように口をパクパクとさせ、真っ直ぐにアタシを見ていた。
『だ・大丈夫!!助けるから!!』
アタシは彼の真っ直ぐな視線にいたたまれなくなり、一際大きな声で彼に呼び掛ける。
「出来ない約束はするものじゃねぇよ」
バカオトコがアタシの言葉に、冷めた口調で心無く吐き捨てる。
『あ・・アンタ何言ってんの?!』
アタシはまたバカオトコを怒鳴りつける。
「何って?事実だ。・・・それにソイツだって、そんな事を望んじゃいねえよ」
『ハァ?!アンタほんとに何言ってんの?!』
「・・・ったく」
バカオトコは呆れ返るように呟き、煙草を荷台の外に投げ捨てながら、億劫そうに荷台から外に出て行った。
『何なのよ?馬鹿・・・』
アタシはアタシでバカオトコに呆れかえったが、バカオトコの言うように助手席の彼に対して本当に無力で、ただ彼の手を握り返す事しか出来なかった。
彼は相変わらず口をパクパクとさせながら、何かを懇願するようにアタシを見ていた。