愛染堂市
『・・・それが正しい事とは思えない』
それでも腑に落ちないアタシの意地のような部分が、独り言のようにボソリと口を出る。
「・・・正しいか正しくないかは俺にも分からない。・・・コイツが苦しんでいる事実を前に、俺は俺の出来る事をするだけで、俺がコイツだったら望む事をするだけだ」
バカオトコは先程までの呆れ口調とは少し調子の違う、どちらかと言うと穏やかな口調で独り言のように呟いた。
バカオトコがそっと顔を上げ、空を見上げたかと思うと、直ぐに彼に視線を落とし、間も無くして乾いた甲高い音が辺りに響き渡る。
その瞬間、アタシはバカオトコの顔を見ている事しか出来ず、撃ち抜かれた彼に視線を落とす事は出来なかった。
「オイッ!!バカオンナ!!」
放心するアタシの顔を覗き込みながら、バカオトコが大きな声で呼び掛ける。
『あっ!!ん?・・・え?』
「え?じゃねぇよ・・・ボサっとしてても仕方ねえだろう?」
『あ・・・うん』
「・・・ったく」
バカオトコは先程の穏やかな口調とは裏腹の、嫌みたらしい口調に戻っていた。
「取り敢えず俺をココから一番近い街場まで案内してくれよ。クライアントに連絡を取りたいんだよ」
『街場?・・・それは無理かも・・・だって一番近い街場から逃げて来たんだから』
「ハァ?!じゃあ電話は?電話のある集落は無いのかよ?」
『電話線も電線も、さっきの街までしか来てないわよ』
「ハァッ?!マジかよ?!」