愛染堂市
―――――ヤマモト



 近くのラブホテル街に立つ、中南米出身の立ちんぼ達が数人、賑やかに店内に入り込んでくる。

木村は少し身を高くして、その立ちんぼ達を眺め、苛つくニヤけ面を浮かべていた。


『アンタ、なんでシリアルを削らなかったんだよ?』


俺は木村のニヤけ面に、苛立ちを隠さず言葉を吐きかける。


「ん?・・・一丁は細工屋に頼んだんだが、二丁目は時間が無くてな・・・それに結構な金額するんだぜ」


『金と時間を惜しむとロクな事にならねぇな・・・』


「おっ、貧乏ヤクザが良いこと言うじゃねえか」


『何を他人事みたいに・・・』


木村のニヤけ面は崩れる事もなく、予想以上にムカつく返答が、俺を益々苛立たせる。


『・・・それで、アンタの不始末を何で俺に話すんだい?・・・だいたい押収品なら、アンタが何とかする問題なんじゃないのかい?』


「まあ、一課だけなら何とかならねえ事もねえんだが・・・今回は公安が絡んでてな」


『公安?・・・四課か?』


「いや、それが四課じゃねえらしい」


木村は少しだけ表情を神妙にさせ、俺の顔にムカつく顔を近付ける。


「なんかエラく厄介でな・・・今回ばかりは俺もお手上げなんだよ」

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