愛染堂市
 
「―――ほらっ」


 俺は右側から低い男の声で、突然煙草を差し出され、情け無い事に一瞬だが体を強ばらせる。


「パーラメントだが、構わないか?」


煙草を差し出した声の主は、そう言って少し長めのボックスのパッケージを俺に向ける。


『・・ああ、構わねえよ。煙さえ出りゃ上等だ』


俺はそう言って、ボックスから一本取り出す。

煙草を差し出した男はストライプのスーツのジャケットから、金色のデュポンを取り出し、俺のくわえた煙草に火を点け、「随分と派手に荒らしてくれたな」と溜め息混じりに言い、金色のデュポンをジャケットに戻した。


『もう四課の耳に入ったのか?』


「中島、入ったも何もねえよ。御代志会系列だぞ。寝耳に水じゃ困るんだよ、前もってウチに声掛けといてくれ。・・・小池、お前もだよ。ったく、お前はその辺の所は中島のアホよりも、しっかりしてると思ってたんだがな」


「すいませんでした毒島さん。・・・あっ?!潜入捜査中でしたか?」


捜査四課の毒島、ヤクザモンばかりを相手にしてる所為か、どっちが『本業さん』か見分け辛い容姿をしていて、そんな容姿を揶揄するように小池が軽口を叩く。


「くそっ!!コイツも中島に似て来やがった」


『毒島、声掛けたら・・・俺達に任せたか?』


俺は小池の軽口に腹を立てる毒島を、話の本筋に戻す。

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