愛染堂市
『なぁ毒島、頼まれてくれないか?』
「ハアッ?!何言ってんだよテメエ?!・・・貸しこそ有れ、借りは無い筈だぞ?!・・・それに今回の件だって、まだ詫びも入れてないだろ」
毒島のすっかりとアッチの業界に浸かりきった巻き舌口調に、救急車の中で吹き出しそうになっている小池を横目にしながら、俺は勢い付いた毒島を制止するように両手を掲げ言葉を続ける。
『いや、今回の事はホントに悪かったよ。ちゃんとお前さん方に相談するべきだった』
「当たり前だろ!!義理は通せよ」
『確かに俺達はヤクザモンには素人だった。・・・で、そんな素人になんとか力貸して貰えないか?』
俺は掲げた両手を毒島の肩に掛け、自分でもいやらしいと思う程の笑顔で問い掛ける。
毒島は、「やめろよ気持ち悪い」と言いながら、俺の両手を振り払う。
『なぁ頼むよ、昨日今日の付き合いじゃねえじゃねえか?』
「断る。そんな義理は無い筈だ」
救急車の中の小池が「義理って」と言いながら、ついに吹き出し、毒島がすかさずそれを睨み付ける。
「・・・とにかく俺はお前さん方の所為で迷惑被ってんだ。これ以上お前さん方に、荒らさせる訳にはいかねえな」
毒島は俺の方を向きなおし、小池を意識してか先ほどまでとは口調を変えて吐き捨てる。