愛染堂市
「木村警視、ちょっとお願いします」
俺が木村の質問に素直に『FBI』と答えたのとほぼ同時に、制服警官が木村に駆け寄り、お堅いスーツの肩を叩きながら声を掛ける。
木村は「ああ今行く」と制服警官に応え、俺と毒島を鋭い目で眺めながら「いくらアンタらでも最大限の協力はしてもらうぜ」と言い、毒島が迷惑そうに「俺もかよ?」と木村に聞き返すが、木村は鋭い目を曇らす事無く黙って頷く。
「明日までにアンタらの資料と報告書が欲しい。・・・勿論期待はしないが、ここは日本の新宿のど真ん中だ、いくらFBIだろうと関係ねえ。俺は生憎と聞き分けが悪いんで、機密事項で伏せ字だらけの資料を受け取るつもりは無い」
木村はそう言い放つと制服警官に「何か出たか?」と聞きながら、俺達の前を後にした。
「・・・中島さんタイプですね」
木村の背中を間抜けに見送る俺と毒島に、救急車の中の小池がボソリと呟く。
「馬鹿言うんじゃねえよ小池、中島とは雲泥の差だよ。・・・中島みたいな使い捨てと一緒にすんな」
『なんだよ?使い捨てって?』
「木村はああ見えてキャリアだ。・・・アイツの親父は先の神奈川県警本部長を務めた木村卓三だ。・・・警察一家の良血馬なんだよ。雑種のお前とは違うだろ?」
毒島の言葉に俺は気の抜けた声で『へえ』と気のない相槌を返す。