愛染堂市
 
「立派な親父さんと優秀な弟のお陰で、義理堅く監察も本格的に動いてないんだろうが、常に黒い噂が絶えねえ野郎なんだよ」


 慌ただしく動き回る制服警官達を横目に、噂話で上機嫌になり始めた毒島の話に耳を貸す。

正直なところ、木村の身上や木村の兄貴の事なんて俺にはどうでもいい事だ。

ただ、俺が負け惜しみを吐いたと思われるのが嫌なのと、毒島に頼みたい事もあるので、噂話なんて下世話な話に耳を貸す。


『・・・なあ毒島、さっきの話なんだが』


 木村の兄貴の話で盛り上がり始めた毒島の機嫌を、なるべく損なわないように、俺はやんわりと声を掛ける。


「・・・ん?さっき?」


俺が細心の注意を払ったにも関わらず、毒島は露骨に怪訝な表情を浮かべる。


『木村も言ってたじゃねえか・・・相手の目処だよ』


「目処?」


毒島は明らかに嫌悪感を剥き出しにする。


『さっきも言ったが、俺達はヤクザ関係にはズブの素人だ』


「・・・だから?」


『そんな素人に、何とかお力添え願えないもんかな?』


毒島は俺の言葉を聞き終わると、深々と溜め息を吐き、「図々しい野郎だ」と言葉を吐き捨て、煙草を石畳の上に放り、尖った靴の爪先でもみ消す。


「相手もヤクザモンだと思ってるのか?」

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