愛染堂市
毒島の問いに答えようにも、俺はすぐに考えが纏まらなかった。
襲われたのが暴力団傘下の左翼団体だとしても、相手は同じヤクザモンだろうか?
元々は外事に絡んだ件、相手がヤクザだと勘ぐるのはあまりにも安易かもしれない。
それに、あの涼しい顔でオートマチックを撃って来たスーツの男は、ただのヤクザモンだとは考えにくい。
「おい?」
考えの纏まらない俺を毒島が覗き込む。
俺は『ああ』とだけ独り言のような返答をし、覗き込む毒島から顔を逸らすように周りを見渡す。
無数のパトライトの不規則な光が境内に溢れ、新宿のド真ん中に異様な光景を作り出す。
いつの間にかに集まった警戒線の外の野次馬達が、境内の中の様子を覗き込もうと必死に背伸びをし、そこかしこから「ざわざわ」とした耳障りな雑音が響き渡る。
『――判らん』
俺は纏まらない考えを飾る事無く吐き出し、灯火になりつつあった煙草の煙を吸い込む。
そんな俺の言葉に毒島は溜め息を吐いた。
「判らんって、お前・・・俺に無駄足踏ませる気か?」
俺は吸い慣れないパーラメントを石畳に投げ捨て、爪先で揉み消しながら、『頼む』とだけ肺の隅に残った煙と共に吐き出す。