愛染堂市
 
 木村はウェイトレスが了解し、コーヒーを注ぎに来ると、頼んでもいない俺のカップにも注ぐように促し、ウェイトレスは俺の了解も得ずに無愛想に注いだ。

ウェイトレスが二人のカップにコーヒーを注ぎ、申し訳程度の会釈をして席を離れると、木村は例のごとくズビリと音を立てコーヒーを啜りながら、「難しい事じゃねえんだよ」と話を切り出した。


『難しい事じゃない?・・・木村さんよ、アンタがどう思ってるか知らねえが、俺みたいな小者に出来る事は限られてくるぜ?』


「そんな事は知ってるよ」


木村は少し馬鹿にしたように笑いながら言葉を返す。


「ただ売った相手に返して貰ってくれりゃ良いだけなんだよ」


『それなら自分でやれば済む事じゃねえか!?』


「まあ確かにそうなんだが・・・相手が相手だ、そうもいかねえんだよ」


『何だよソレ!?・・・なら、俺じゃなおの事無理だろうが?』


「いや、お前なら大丈夫だろう?・・・同じ杯を貰った義兄弟なんだろうし・・・」


木村の言葉に俺は珍しくピンと来たが、往々にして、それは都合の良くない事が多い。


『義兄弟!?・・・まさか相手ってのは!?』


「まあアッチは大分出世しちまったようだが・・・お前の兄弟分、美山組の美山だよ」


俺は木村の言葉に迂闊にも頭を抱えて、そのまま軽く掻き毟る。


――また美山かよ

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