愛染堂市
『此処まで来るまでの間にいったい何人の人間が死んだ?』
「・・・何人って?」
『もっと分かり易い言い方をすれば、俺達が助かる為に、何人のゲリラを殺したと思う?』
バカオンナは、一瞬ハッと目を大きくしたが、すぐに瞼を落としまた俯いた。
『いいか?お前達みたいな偽善者は、命に重いも軽いも無いと言いながら、自分の御都合で取捨選択してんだよ。アノ街でゲリラ共を殺さなけりゃ、確実に俺もアンタもアンタが連れてる薄汚いガキ共も死んでいただろうよ』
「・・・それは」
『それは?それは何だよ?それは違うって言うのか?・・・違わねえよ。今、右も左も知らねえアフリカのクソ暑い路肩で転がってるコイツも、街で殺したゲリラも、アンタも俺も、アンタの連れた薄汚いガキ共も違わねえんだよ。・・・俺から言わせりゃ、確かに命に重いも軽いも無いのは確かだが、逆に言えばどの命も重くねえって事だ。所詮はアンタのその気休めの同情なんてもんは、テメエの価値観で命を天秤に掛けたがる、アンタら偽善者の自己満足でしかねえんだよ』
俺は苛立ちに任せて言葉を垂れ流し、バカオンナは相変わらず俯いたまま口をつぐむ。
幾らか日が傾いたのか、直接肌を焼くような日差しは生い茂る木で陰り、乾いた風を砂埃と汗にまみれた首筋に感じる。