愛染堂市
首筋を僅かに冷やした乾いた風は、ザワザワと木々を揺らし、言葉を失ったバカオンナと、言葉を吐き散らした俺の間に沈黙を作り、俺はそんな沈黙に僅かばかりの気まずさを感じたのか、煙草の煙をいつもより余計に吸い込み軽く咳払いをした。
「・・・此処に置いていく気?」
バカオンナが俯き加減のまま、掠れたような声で言葉を吐く。
『他にどうする?』
「偽善って言われても、ちゃんと弔ってあげたい」
『・・・ったく、俺の話聞いてたのかよ!?ご立派だな!!コイツはもう死んでんだよ!!・・・肉だよ!!肉の塊でしかねえんだよ!!』
俺はバカオンナの聞き分けの無さに苛立ち、路肩に転がる肉塊と化したかつての仲間の脚の辺りを爪先で軽くコツきながら、バカオンナに怒鳴り散らす。
「止めて!!死んだ人を軽々しく蹴ったりしないで!!」
バカオンナは俺の行為が相当気に入らなかったらしく、先程まで俯き伏せていた目線を真っ直ぐに俺へ向け、生真面目に言い放つ。
バカオンナのそんな言動は、俺にとってはとても滑稽に思え、俺は薄ら笑いを浮かべながら、態とらしくもう一度死体の脚を蹴る。
「止めて!!」
バカオンナは一際大きな声を上げ、立ち上がり、間髪入れずに俺の頬を右手の平で思い切り張った。