愛染堂市
―――――京子



　勢い任せに思いっきり振ったアタシの右の平手は、驚く程あっさりとバカオトコの左頬を弾いた。

――正に勢い任せ

後先の事も考えず、バカオトコの言った事に何一つ言い返せないアタシの鬱積した悔しさのような苛立ちが、そしてそれを見透かし、彼の死体を態とらしく足蹴にするバカオトコへの怒りが、右手を強く振り切らせた。

　バカオトコは弾かれた頬を此方に向けたまま、やや俯き加減でゆっくりと瞬きするように目を伏せ、間も無くして横目に冷たい目線を向けてきた。

背筋に痺れにも似た寒気を覚える程の冷たい目線だった。


『何よ!?』


「つくづく馬鹿な女だな」


寒気を振り払うように出た勢い任せのアタシの言葉も、バカオトコは冷めた口調で返す。


「何か勘違いしてるんじゃねえか？」


バカオトコは顔を正面に戻し、更に冷めた口調で言葉を重ねる。


「テメエにブたれる理由は無いと思うがな・・・むしろ、足手まといのテメエらを生かしてる理由も無いんだぜ俺は」


　バカオトコは後ろ腰に手を回し、拳銃を態と見せるように取り出して、その銃口の先をアタシの眉間に突き立てた。

　アタシは眉間に当てられたヒヤリとした感触に強い恐怖を覚え、バカオトコの言葉に『ごめんなさい』と情けない言葉を返しそうになったが、その言葉を唾気と共に何とか呑み込んだ。

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