愛染堂市
今にして思えば、俺には出来過ぎた子分のヤナギが、わざわざ俺の怒りを買うような話を持ち掛けてくる筈もなく、ウチの組の起死回生を図ったヤナギの苦汁の選択だったんだろう。
お陰で今だに、八方塞がりの貧乏ヤクザだ。
木村の言うシャブが、いくらまっさらな上物だったとしても量が量だ。
正直な話、そのままリスクを負わずスライドした所で多く見積もっても当座の資金にしかならないだろうし、まともに捌いた所ですぐに底をつく。
だがヤナギに任せれば、マーケットとまでいかなくても、シノギの足掛かりに上手い事やってくれるだろう。
頭を下げられねえ俺の、ヤナギへの詫びの代わりの手土産には十分な量だ。
意地の部分を除けば、確かに俺にとっても悪い話じゃねえ。
簡単な用事で返りはデカい、二つ返事で引き受けても良いような事だ。
――ただし引っ掛かるのは相手が美山って事と・・・
『なあ、木村さんよ』
俺はニヤけ面を見据えて切り出す。
「お?何だ?他に質問か?」
『アンタが美山に売った銃の一丁が今夜出て来たって事は、今夜の事件は美山の仕業って事かい?』
「・・・さあな」
『さあなって!?』
「正直、分からん」
木村は他人事ように吐き捨て、両の手を返し白々しく首を振った。