愛染堂市
 
『今夜襲われたのは御代志会系の事務所って言ったよな?』


「ん?ああ」


『木村さん、アンタなら分かるだろうが・・・それがどう言う事なのか?事の重大さは理解してるよな?』


 木村は相変わらずのニヤケた面で、俺の話を聞き流すように目線を外し「そりゃあ、まあな」となおざりに言葉を返した。


『オイオイ冗談じゃねえぞ・・・』


「でも内々で手打ちになってんだろ?」


木村の明らかに他人事のような言い草が、必要以上に俺を苛つかせる。


『手打ちって言っても、本当に内々の杯の無え口約束だけだぜ!!・・・一時的なもんで、今は膠着状態にあるだけなんだよ!!何が火種で戦争が始まるかわからねえんだぞ!!』


木村は俺の話を退屈そうに聞き、早々に飲み干したコーヒーカップの底を眺めながら「火種ねえ」と呟いた。

そして思い立ったように立ち上がり、何も言わずに出口の会計の方へと歩いて行った。


『オイ!!何だよ!?』


木村は俺の呼び止めに応える事なく会計の前の新聞を物色し、その中の一部を持って席へと戻ってきた。


「火種は既に点いてるんじゃねえか?」


木村はそう言って新聞の一面を開き、記事の見出しを指差す。


『―――波田建設…明日にも立ち入り調査?…どう言う事だよ?』

< 219 / 229 >

この作品をシェア

pagetop