愛染堂市
「ちょっと用事済ませてからになるけど・・・飯でも食うか?」
『え?』
「腹減ってんだろ?俺も朝飯食ってから寝るつもりだったからよ」
アタシは馬鹿だから迷ってる。
男の優しい食事の誘いに揺らいでる。
状況を考えれば、この迷いがどれだけ馬鹿げた事か見当がつくのに、アタシはそれでも空腹と淋しさを紛らわせたいと思っている。
淋しさ?
アタシは淋しいの?
ここ何年も淋しさを実感した事が無かったのに、昔何度も男に酷い目に遭わされて男に拠所を求めるのはやめた筈なのに。
この男と話してるとアタシは疎外感を受ける。
まだ言葉少なに二・三言だけ言葉を交わしただけなのに、アタシは疎外感からか淋しさを覚える。
この男は確かに色っぽい、それに良い匂いがする。
でもそれだけでアタシは、この男に拠所を探してるの?
違う。
今は、この男の手の内にアタシの命が握られている。
アタシを生かすも殺すも男次第なんだ。
だからアタシは、この男に縋る、そして今アタシの全ての拠所がコノ男なんだ。
きっとそうだ。
アタシは今マトモじゃないんだ。
この異常な状況がアタシにそんな風に思わせるんだ。