愛染堂市
 
 ウェイトレスが相変わらず眠たそうな顔でコーヒーを注ぎに来、木村は「悪いねネエチャン」とウェイトレスに愛想を振る。


「――今まで大出の後援会の一つは波田建設の二次団体だったんだが、今地検が動いてる本丸はそれじゃねえんだよ」


木村は注がれたコーヒーにテーブルシュガーをさらさらと多めに入れ、それをかき混ぜながら話を続ける。


「大出が深く関わっているとされる愛染堂市の再開発の話は知ってるか?」


『いや、知らん』


「…だろうな。その愛染堂市の開発の一部のハイテク工業団地の話があるんだが…当初の予定では波田建設が大々的に請け負う形になっていたらしい」


『それがどう火種に繋がるんだよ!?』


「まあ最後まで聞け。それが最終的にはアメリカに本社を置くリゾート開発会社が指揮を取ることになったんだよ」


『まどろっこしいな。結局どう言う事だよ?』


「アメリカのその会社は何年か前に破綻しかけている会社でな、日本のあるリゾート開発会社が株の大半を所有していて、実質的にはその子会社みたいなもんなんだよ」


木村はもったいぶるようにコーヒーを啜り、俺の理解を確認するように顔を見る。

俺は情けない事に、そんな木村に馬鹿のようにただ頷く。

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