愛染堂市
「その日本のあるリゾート開発会社ってのは、美山の組のフロント企業だ」
『何!?』
俺は間抜けに声を上げてしまう。
『――ん?だけど、それがどう火種になるって言うんだよ?』
「まあ確かに表向きは波田建設と美山の会社の企業競争でしかないんだが、その蔑ろに蚊帳の外へと追いやられた波田建設の"ケツモチ"が、仲の悪い御代志会ってとこが問題なんだよ」
俺は複雑になっていく話に思わず頭を抱えかきむしる。
「地検は本丸への切り崩しに、まだ手をこまねいていて、未だ決定打も無いまま粗探しで大忙しだ。…正直言うと今俺が美山に近づけねえのはソレが理由だよ」
『どうして?』
「バカ野郎、オメエは地検の奴らがどれだけ質が悪いのか知らねえのか?アイツら下手したらオメエらヤクザモンより質が悪いぞ」
『ヤクザモンを前にして言う事じゃねえだろ』
「まあな。とにかく、今は美山に現職の警察官が近付く事は難しいんだよ。わかるかなヤマモト君?」
木村は無知な俺を見下しているのをまざまざと見せるように言い、ムカつくニヤケ面のままコーヒーを啜る。
俺は複雑になっていく話に頭を抱え、僅かに冷め始めたコーヒーの表面に映り込む歪んだ蛍光灯の光を眺め続けた。