愛染堂市
「エレベーターでくたばってた奴居ただろ?」
毒島は俺の肩に手を掛け部屋の外へ促すように押し出し、俺の耳元に小声で呟く。
「あのエレベーターの野郎は何となく見覚えがある」
毒島は他の捜査員に聞かれないようにだろうか、俺を部屋の外へ連れ出し小声のまま呟きながら苦い顔をする。
『何かあるのか?』
毒島の様子が引っ掛かった俺は毒島に合わせるように小声で聞き返す。
「ああ…取り敢えず外に出るか」
毒島は似合わない神妙な面持ちを浮かべながら階段へと向かい、俺もそれ以上は何も聞かず黙って後を追った。
一階に到着すると、ちょうどエレベーターの中の仏さんを運び出そうとしていた。
『知った顔なんだろ?』
俺は運ばれる仏さんを顎でしゃくり上げながら毒島に言うと、毒島は神妙な面持ちを崩す事なく頷き、足を止めずそのまま雑居ビルの出口へと向かった。
外に出ると先程よりも野次馬が増えているように感じた。
「なあ中島…このヤマは厄介だと思うぞ」
『改まって言うような事でもないだろうよ…どう言う事だよ?』
「エレベーターでくたばってたのは堅気じゃねえが…ヤクザもんでもねえ」
毒島は胸ポケットからパーラメントを取り出し、無駄に長いその一本をくわえながら他のポケットに入れたライターを探す。