愛染堂市
『ヤクザもんじゃねえって、どう言う事だよ?』
やっと見つけたライターで大事そうに火を付ける毒島は、俺を横目で見ながら溜め息混じりに煙を吐き出す。
「ヤクザもんじゃねえがヤクザみたいな奴だよ」
『何だよそれ?』
「企業や政治家やらの私兵みたいなもんかな…いや、汚れ仕事専門の口利きとでも言えば分かり易いか」
毒島はくわえ煙草のまま、野次馬の群れを窮屈そうに避ける。
毒島に避けられた野次馬が、煙と毒島に明らかな嫌悪を示す表情を浮かべる。
『それがどう厄介なんだ?』
俺は毒島が切り開いた野次馬の隙間を必死に縫う。
「…事務所の連中が普通にヤクザもんなら事は単純だ。汚れ仕事の下請けだろう」
少し野次馬が開けた場所で待っていた毒島が煙草の灰を弾きながら言う。
「ああ言う連中が客から受けた依頼の…まあ、客の不始末やら何やらの尻拭いをヤクザに請け負わせるなんざ、よく聞く話だが…今回のはしっくり来ねえな」
『事務所に居た連中が堅気のガキ共だからってだけでか?』
「…上手い事言えねえが、在るべき処に在るはずの物が欠けてるような感じだ。…何してたのかは知らねえが、あの事務所はどう見ても真っ当なヤクザ稼業には見えねえし…ひいき目で見ても詐欺が関の山だ」