愛染堂市
『…暴力団傘下の左翼団体が、ガキ共集めた詐欺じゃ不満か?』
「不満って訳じゃねえが…それじゃエレベーターの奴があそこに居た理由には結び付かねえな。…それにアメリカ人のパソコンオタクの理由としても説明がつかんだろう?…わざわざ日本に来てまで詐欺のお手伝いか?」
毒島の似合わない神妙な面持ちは俺を少し居心地の悪い気分にさせる。
「ネタ元が分からねえから何とも言えねえが、外事のお前さん方が出張ってくるヤマだ。…そうは単純じゃねえだろうがな」
『複雑な事には慣れてるよ』
「そうじゃねえよ中島。俺が言いてえのは、俺達四課にとって複雑だって事よ」
『…四課にとって?』
「ヤクザ絡みなら、ヤクザだけ絡んでてくれりゃいいって事だよ」
『よく分からんが、そんなもんなのか?』
「そんなもんなんだよ」
俺は毒島の感じている感覚がイマイチ理解出来ずにいたが、門外漢の俺には解らない次元での毒島なりの感覚なのだろうと理解し、『そうか』と一言返事をし、毒島の言葉を素直に聞き入れた。
毒島は俺の言葉に無言で頷き、くわえていた煙草を道に投げ捨て、靴の先で雑に踏み消す。
そしておもむろにポケットの中から携帯電話を取り出すと、電話帳を確認しながら片手を挙げ「じゃあな」と無愛想に俺の前から立ち去って行った。