愛染堂市
 
 毒島に取り残されたように野次馬の人混みに佇む傷だらけの自分を不憫に思い、重い足を引きずりその場を後にする。

俺達が現場に着けた車に戻ろうともしたが、野次馬共にクラクションを鳴らし通りまで出るのも億劫なのと、それ以上に撃たれた脚の痛みを堪えて運転するのが更に億劫に感じられた為、靖国通りまで出てタクシーを拾う事にした。

 道すがらすれ違う人間は一様に浮き足立っていて、噂を聞きつけて来た野次馬だと容易に察しがついた。

そんな好奇心剥き出しの連中を尻目に、俺は纏まらない考察を重ねる。

 愛染堂市経由で密入国したアメリカ人、そいつの手配をした暴力団傘下の左翼団体、そしてそいつらを殺した涼しい顔したすかした男。

あの男は何故アメリカ人をあそこまで連れてきたのか?

そして何故事務所のガキ共を殺す必要があったのか?

毒島が言っていた汚れ仕事専門の私兵だと言うエレベーターの仏さんも気になる。

 仕事柄、複雑な事件には慣れている。

そんな慣れっこになった俺の中で、培って来た勘が何かを訴えている。

今の俺があるのは己の勘を信じて来たからだと自負している。

 ―――ただの取り越し苦労さ

少なからず芽生えた不安と体中の痛みを拭いたい一心で、ジャケットの内ポケットに手を入れる。


『チキショウ…切らしてたんだった』


煙草を探す指先は内ポケットの中で切なげに踊る。

俺は溜め息を飲み込みながら、靖国通りへとトボトボと歩く。

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