愛染堂市
―――――ペンキ屋



「・・・今度は何処?」


『次は車屋に行く・・・』


「・・・車屋?」


『あぁ・・この車は足が付いちまったし』


「遠いの?」


『腹減ったか?・・・もうすぐ着くから安心しな』


――俺は何を言ってるんだ?

何を安心させてるんだ?

俺の行動は明らかにオカシイ。

この女は街の娼婦だ。おそらく身寄りも無い、この街に沢山居る娼婦の一人だ。

――同情か?

不幸な娼婦の中でも、特に不幸そうな片手の無い娼婦への同情か?

――俺にそんなヌルイ部分があったのか?


 考えるのは面倒だ。

取り敢えず車を処理して飯でも食ったら、その後二度と会う事も無いだろう。


 精肉工場から10Km程度離れた所に目的の建物がある。

一見すると倉庫だが俺達の間ではココは立派な車屋だった。

俺は倉庫の前で車を停める。


「・・・ここ?」


『あぁ』


「倉庫?・・だよね?」


『あぁ・・・でも車屋だ』


 俺は女を車から降りる様に促し倉庫のシャッターの前まで歩く。

女は少し不審な顔をしてキョロキョロと辺りを見回しながら俺の後に付いてくる。


「・・・人居ないみたいだけど・・・」


女の言葉に俺は薄笑いを浮かべてシャッターの脇の扉を開く。

扉は重たく少し力が要ったが、重い扉を開くと喧しい機械音が辺りに響き渡る。
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