愛染堂市
相手が警察であったとしても、分は俺にある筈だった。
だが中島の視線には余裕すら感じ取れたように俺は思ってしまう。
満腹のライオンが目の前で、無邪気にはしゃぐインパラの群れをやり過ごすように、中島がまるで俺を余裕でやり過ごしたように俺は感じてしまった。
俺はやっかい事が嫌いだ。
中島の目線を思い返す度に、俺は座り心地の悪いミニのバケットシートに苛立ちを覚え、何度も体を捩る。
『くそっ・・・やっかいだ』
俺は中島にとどめを刺さなかった事を後悔する。
正直見くびっていた自分に腹が立つ。
『・・・だが中島一人に何が出来る?』
仮に奴が俺に辿り着いた所で、俺をどう出来る?
『焦る事は無い』
俺は言い聞かせるように結論付ける。
俺には、まだ済まさなきゃならない事が残っている。
これ以上やっかいな事を増やしたくない。
『まずは女から始末しとかなきゃ・・・な』
俺は居心地の悪いシートも後少しの辛抱と自分に言い聞かせながら、ミニを郊外の車屋の倉庫に走らせる。