愛染堂市
―――――アサガオ



『今日も客にキャンセルされた』


だけどアタシは、客のキャンセルにはもう慣れている。

最近じゃ『断る理由は何だろう?』と、客の部屋に着く前に考える様になっていた。

ちなみに今日は「それじゃ満足なサービスは無理だろう?」だった。

 結局の所、私の容姿に原因がある事もアタシはちゃんと分かっているし、アタシは自分の容姿に同情して貰おうとは思っていない。

アタシは太ってもいないし、ガリガリでも無い。

客を満足させるには十分な体をしてるし、満足させる武器も持っている。


『ただ、アタシには左手が無い』


たまに興味本位でアタシを抱く男も居るが、大体は断られるか諦めてアタシを抱く。


 アタシの左手は最初から無かった訳じゃない。

昔付き合った男に、プレス機で潰された。

理由は些細な事だったと思う。

どんな理由か思い出すと、自分が馬鹿らしくなる程くだらない事だったと思う。

何せ男はくだらない事で怒るから、いちいち覚えていられない。


『ホントに男はくだらない』


だけどアタシは、今はそんな男に抱かれて金を貰って生きている。



この街で

< 5 / 229 >

この作品をシェア

pagetop