愛染堂市

 少し乱暴に仕切り戸を開けてペンキ屋が部屋に入って来た。


「ホレッ」


そう言ってペンキ屋は、車屋のジイサンの事務机の上に、ビニール袋の包みを投げた。


「遅かったな?」


事務机の上に投げられた、ビニール袋の中身を確認しながら車屋のジイサンは言った。


「・・・道が混んでやがった」


そう言ってペンキ屋は、ポケットから可愛い犬のキーホルダーの付いた鍵を事務机の上に放った。

車屋ジイサンは事務机の中から、今度は事務用のネームプレートみたいなキーホルダーの付いた鍵を出して、ペンキ屋に放った。


「・・・行くぞ」


ペンキ屋は、そう言って事務室を出て行った。

 アタシは、ぺンキ屋の雰囲気が変わっていた気がして、車屋のジイサンの方を見た。

車屋のジイサンも気まずそうな顔をして、アタシの方に首を振った。

車屋のジイサンはまるで「行くな」と言っているような感じがした。

 アタシは、どうしようも無く不安で寂しい気持ちを振り切れないまま、ペンキ屋の後を付いていく。


 アタシは本当にどうしようもない馬鹿なのかもしれない。

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