愛染堂市
 
 女は少し俯いた様子で黙ったまま、ウェイターが「アイスティーは?」と言ったら、小さく手を上げた。

ウェイターはトレイに残ったアイスコーヒーを「どうぞ」と言って、俺の前に置き「失礼します」と言って、厨房の方に戻った。

 俺はアイスコーヒーに、ミルクだけを挿して、ストローでゆっくりとかき混ぜる。

 女は、反省して見せるガキのように、アイスティーをじっと眺めたまま動かなくなった。


 お昼も近いが、ここはオフィス街や工場地帯からも離れている為か、人もまばらで、俺達の後に、まだ来店した客は居ない。

 俺はアイスコーヒーを、一口ストローで流し込み、喉奥を通らせると、ポケットからタバコを取り出し、火を点けた。


「―――いいの」


『はぁっ?』


 俺が煙を一息吐き出すと、女は突然話し出した。


「このまま殺されてもいいと思うの」


『何言ってんだよお前?』


「最近は全然楽しい事も無かったし・・・でも今日は楽しいし」


 女はニコニコしながらいきいきと話を続ける。

 俺は少し呆気に取られて、黙って女を見ている。


「でも・・・ペンキ屋じゃなきゃ嫌なの。ペンキ屋に殺されるなら良いかなぁ?って思ったの。・・・だってホラッアタシ馬鹿だから」


『馬鹿じゃねぇの・・・』


「うん!!アタシ馬鹿だよ」


 女の言葉に、逆に俺が言葉を失う。

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