愛染堂市
「都市伝説って知ってるかい?」
『はあっ?!』
「―――まぁいいや、真しやかに言われているような話で、ペンキ屋って言う殺し屋がいるらしい」
『ペンキ屋?』
「あぁペンキ屋だ」
『コイツはソイツの犯行だって事か?』
「まぁ・・・聞けよ。・・・勿論前科は無えし、実際居るのかどうか疑わしい」
『・・・それがどうした?』
俺は少し腹が立って、木村に喧嘩腰に言葉を吐く。
実際に、存在だけ知られているが姿を見せねえ奴は他にも大勢居る。
そう言った人間と、俺はやり合っている経験も過去にはあるし、大体にして足の付かねえ奴等とやり合う事自体が、珍しい事じゃねえ。
だが木村は相変わらず、床を擦りながら言葉を吐いた。
「―――前に、組長を殺られて面子を潰された組が、相手の組だけじゃ飽き足らず、組長を殺した奴も殺そうとした時があったらしい」
『・・・それで?』
「その組は、取り敢えず相手の組を潰す事は出来た。・・・まぁ相手の組ってのが、大した勢力を持っていなかったのもあるがな」
木村は、床を擦るのをやめて、屈んだまま俺の方に目線を向けて「虎心会って知ってるよな?」と言ってきた。
勿論俺だって、虎心会は知っている。
ただし、この場合は知っていたが正しいだろう。
虎心会は、俺がまだ公安に居た頃、大きな抗争の火種があり、警察の介入で手打ちになり、間も無く解散した大きな組織だ。
俺は木村の言葉に黙って頷いた。