愛染堂市
入り江に近い形になっている海岸線を辿ると、遠くに臨海工業地帯の建物の影が見える、海の先に目をやると薄っすらと水平線のあたりにタンカーらしき物が見える。
夏程でもないが、強い日差しが俺の目に飛び込んでくる。
無機質な物が海にゆらゆらと揺らいでいるようで、俺は自然と目を細める。
俺の頭の中にアイツが浮かんで、俺は外から目を外し顔を正面に戻す。
瞬きがスローモーションのように感じ、その一瞬の暗闇の後目を開けると、目の前に一瞬アイツが現れて、次の瞬きが訪れる。
次の瞬間に俺の目の前に現れたのは、あの女だった。
アイツによく似た左手の無い女だった。
女は本当に美味しそうに、片手でピラフを食べていた。
俺は汗をかいたグラスに注がれたアイスコーヒーを、また一口すすり喉奥に流し込む。
ヒヤリとした物が俺の喉を通り過ぎる時、自分の馬鹿げた事に腹が立ち始めた。
俺は混乱した気持ちを振り切れずにいる。
この女が居る事が俺にとって危険なんだと本能が叫ぶ。
女には悪いが、やはり死んでもらうしかないようだ。
俺は揺ぎ無い自分で居たい。
アイツと同じ事を聞き。
アイツと同じ事を言った。
アイツに雰囲気の似ている「アサガオ」には今日を最後にしてもらう。