愛染堂市
―――――ペンキ屋



『・・・ちっ』


 真後ろまで近付いていたパトカーに、気付きもしなかった。


『もっとも、今まで警察を警戒していた事も無かったが』


 大体こんな朝早くに、どういった了見で塗装屋の車を呼び止めるのかも疑問だし、そんな真面目で暇な警官が、この街に居るとも思っていなかった。

おおかた、飲酒運転の取り締まりか、警察の体裁を整える為程度の職質だろうが、用心に越した事は無い。

トランクを開けられて、三体のビニール包みを開けられるのも困る。

俺は拳銃をジャケットの内ポケットから出して、座席の足の下に隠した。

そして用心の為、カッターナイフだけはポケットの中から出さずに、そのまま入れておいた。

パトロールの警官程度なら、カッターナイフで用は足りる。


 確認する限り相手は二人。

 警官に成り立てって感じの若い制服と、くたびれた感じの中年の刑事。

 適当にあしらえない時は、喉をカッターナイフで切ってやれば済む。


 俺は何食わぬ顔をしてバンを降りる。

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