愛染堂市
 木村は俺の車が隣に着くと、訝しげな顔で一度こちらを見て、見ていないような素振りで、また前に顔を向ける。

俺は木村のそんな反応が楽しくて、木村の乗ったミニパトの窓をまた叩く。


「―――ったく暇人が・・・」


『木村~そいつ刑事だろ事務方の?・・・なんでそんな野郎と仲良くドライブしてんだよ?』


 木村は俺の質問に、訝しげな顔を崩す事なく前を見据え続ける。

隣の脂汗を浮かべた刑事が、目を閉じたまま時折苦悶の表情をコチラにアチラにと向けている。


『―――なぁ隣の脂汗、本当に大丈夫かぁ?』


「なぁ・・・ヤマモト」


 木村はうんざりとしながら此方を向き言葉を吐いた。


『何だい?木村ちゃ~ん?』


「・・・コイツはペンキ屋にやられたんだよ」


『・・・なっ?』


 木村の言葉に俺は言葉を失う。


「赤いペンキが壁一面に散ってやがったぞ・・・・誰の血なんかねぇ?」


『マジか?!木村っ?!』


「こんな所で俺をかまってる場合じゃねえんじゃねえか?」


木村がそう言うと同時に、木村のミニパトの前方の車が進みだした。


「・・・運命なんだよ・・・俺もお前も」


木村はそう最後に吐き捨てて、流れ出した車の列にミニパトを走らせる。

そして、一向に流れない俺の車の列を横目に流し、十字路を左折して俺の視界から消える。


「ヤマモトさん、確認させます」


 檜山が黙り込む俺に気を回し、携帯のアドレスをグルグル巡るように他のモンに電話を掛け始める。

俺はそんな檜山に『おう』とだけ応え、また押し黙る。

名前も覚えてねぇ運転手の若いモンが、チラチラとミラー越しにコチラに送る視線を感じる。

< 74 / 229 >

この作品をシェア

pagetop