愛染堂市
『―――フンッ』
「・・・なんです?」
俺が鼻で笑うと、檜山が空かさず反応し俺の方を向く。
『なに・・・ただ笑っただけさ』
「・・・そうですか」
『なぁ!!若いの!!』
運転手の若いモンが、ビクッと体を強張らせながら「ハイッ」と返事する。
『オメェ名前は?』
「さ・・サイト・・斉藤っす!!」
『そうか・・・なぁ斉藤?メンッドクセぇなぁっ?』
「・・・へっ?」
斉藤はまた間抜けに受け答えをする。
俺が間抜けな斉藤のリアクションにうんざりしだすと、やっと前の車が進みだした。
檜山が斉藤にアゴで合図して「はっはい!!」と斉藤が、また間抜けに返事して、車を走らせ出す。
『運命』だぁ?
木村もふざけた事を抜かしやがる。
『―――残念ながら、俺はそんなモノを感じる程、暇じゃねぇ』
「なんです?」
檜山が俺の独り言に、携帯電話を耳から遠ざけながらイチイチ反応する。
俺は『独り言だ』の一言を吐き出すのも馬鹿らしく、檜山に前を向くようにアゴで合図する。
目の上のタンコブは切り落とせば、それで済むだけの事。
俺は別に悩む必要は無え。
『奴』が、なりを潜めていただけ、そんな事ぁ分かってた事だ。
それ相応の手を打てば済むだけの事・・・
・・・それだけの事だ。
俺はシートに深く身を沈め、ジャケットの内側から携帯を取り出し、アドレスから懐かしい名前を探す。
夏でも無えのに、蒸し暑く感じる。
俺はネクタイをゆるめながら、アドレスの懐かしい名前に電話を掛ける。